2019年01月11日
トリーター:伊藤

海ウグイの展示を目指して

ウグイウグイ

みなさまこんにちは。
当館の展示生物の中で、目立たずも密かに活躍する魚といえば、筆頭はカゴカキダイでしょうが、次点としてウグイが挙げられます。
芦ノ湖で記載され、学名に「箱根」の名を冠する地元ゆかりの淡水魚です。魚の行動展示の先駆けこと「川魚のジャンプ水槽」が 2008年にオープンして以来、常に、わき役ポジションで頑張ってもらっています。最近では、「さかなのもぐもぐプール」で、みなさまの下さる餌をねだったり、時にへそを曲げたりしています。

そんなウグイについて今、試していることがあります。海の魚と一緒に泳がせること。「何を突飛な!」とたしなめられてしまいそうだと思いきや、そうでもありません。
アジアで繁栄するコイの仲間の中で唯一、ウグイとその近縁種だけが、降海、すなわち海で暮らす生態を持っているからです。ウグイ類の海での生態は分かっていないことが多く、降海するタイプは北へ行くほど多いといわれつつも、西日本のとある川のウグイのほとんどに海へ降りた経歴があることが分かったり、という具合です。相模湾でも少ないながら海での漁獲例があります。こうなってくると、海の中でどうやって暮らしているのか、淡水生物による海域(汽水域)の一時的な利用に興味を持つ身としては、想像が膨らみ、いざお試しです。

最初は、バックヤードの水槽にて徐々に飼育水の塩分を高めて、馴らしていきました。ほとんどの個体で成功し、餌もよく食べています。次に、大水槽の浅瀬こと通称「じゃぶじゃぶ池」に泳がせてみました。最近水上に植物の飾りをつけたり、落ち葉をあしらったりして、潮だまりから江の島の北東岸(境川の河口汽水域)にイメチェン中の水槽です。数十匹のウグイたち、いい感じに泳いで・・・くれていたかと思ったら、数日間でみるみる体に傷がつき、餌も食べなくなってしまいました。よく見るとコトヒキがつついています・・・。このままではまずいと思い、魚類チームきっての採集じょうず、杉村・鈴木両トリーターに手伝ってもらい、ほとんどの個体を再びバックヤードへ取り上げて、集中治療です。するとすぐに再びエサを食べ始め、みるみる傷も治りました。彼らの体調不良の原因は塩分の変化ではないとうかがえました。

次に、岩礁水槽と大水槽に数個体を展示してみました。餌はよく食べますが、体に傷が増えてきたような気もします。思いのほか、難しいです。日々の変化を慎重に見守っているところです。今回のお試しで、少なくともウグイ一種だけで飼えば、海水での長期飼育が可能だと確信できましたが、現時点の当館には、ウグイ 1種のために明け渡せる展示水槽がありません(それだけ多くの展示生物を状態よくキープできているということで、館としては嬉しいことです)。海暮らしならではの体や行動の変化はあるのか、他の海水魚たちとの関係は? 魚たちを労わりながらも試せる範囲で試してみたいです。

水族館の人間として、命を慈しみ、長生きできるようにケアするとともに、時にはその自然での行動を引き出すために、時に個体には負担をかけてしまうこともあります。生残率の低さを知りつつ展示のために連れてきたり(イワシやカマス)、場合によっては研究のため、他の展示生物の身を優先するために殺す時もあります。そんな時、時に「命をイツクしむ方」からキツイ視線を向けられることもあります。生き物が好きな者同士で、好きさ加減や方向性の違いからこういうことが起こると、つらいわけですが、確かに言えることは、自分なりに「生き物が好き」ということでして、こんなもやもやも胸に秘めつつ、今年は謙虚にへこたれずに頑張ってまいりたいです(おみくじは末吉で、そんなことが書いてありました)。

相模湾ゾーン

RSS