2019年01月29日
トリーター:岩崎

相模湾旬の魚図鑑 2nd Season その1

今年最初に紹介する魚は、2019年の干支の動物“イノシシ”にちなんで、コトヒキTerapon jarbua )です。
コトヒキは、黒潮や対馬暖流の影響がある日本各地の沿岸域や河口域で見られる魚です。
銀白色の体に弓のように湾曲した黒い縞模様があることが特徴で、この体の模様がイノシシの子どもに似ていることから、地方によってはイノコ(猪の子)と呼ばれています。
3~ 15cmくらいの稚魚や幼魚は、河川の影響がある栄養豊富な内湾の汽水域を好んで生活しています。
東京湾や相模湾では、春先から秋口にかけて波打ち際を大きな群れで泳ぐ姿が見られます。
“えのすい”では、相模湾大水槽の浅瀬、通称じゃぶじゃぶ池でコトヒキを展示していますので、ご覧ください。

さて、東京湾の干潟育ちの私にとって、コトヒキは子どもの頃から親しんできた身近な魚です。
しかし、稚魚や幼魚しか見たことが無かったので、てっきり 15cm程度までの小型な魚であると思い込んでいました。
ところが、20代になって沖縄県の西表島を訪れた際、船着き場や河口域で夜釣りをしたところ、それまで見たこともなかった 25~ 30cmくらいの立派なコトヒキがたくさん釣れて、びっくりしました。
調べてみたところ、イサキの仲間であるコトヒキは、最大 40cmくらいまで成長する魚だったのです。

関東地方では食用としては馴染みの薄いコトヒキですが、南日本では塩焼きやフライなどの食材として親しまれていることもわかりました。
塩焼きにして食べてみましたが、身離れの良い白身に、あっさりとした旨みと甘みがあっておいしかったです。
成魚を入手した際には食べてみてください。

コトヒキは、西表島ではサメたちにも人気の魚のようで、釣り上げている最中に、かなりの確率でサメたちに横取りされてしまいました。
ネムリブカやレモンザメといった肉食性のサメたちは、夜な夜なサンゴ礁や河口域をうごめいてコトヒキを含めた小魚たちを貪り食べているようなのです。
その捕食圧はかなりのものなのではないかと感じる迫力でした。

「コトヒキは、稚魚や幼魚の間の暖かい季節は、比較的天敵の少ない温帯域の内湾で過ごして、成長すると本来の生息域である南日本や亜熱帯の海へ戻っていく回遊魚なのではないか?」

サメのすさまじい捕食圧、東京湾や相模湾であまりにも堂々と大群で生活している稚魚や幼魚の姿、関東地方では見られない成魚が、南日本で見られることから、コトヒキの生存戦略についてこのような仮説を立てるに至りました。
広い海のどこかには、黒潮に逆らって南の海へと通じるチャンネルがあるのでしょうか?
あくまで仮設ですが、水温が下がる秋の終わりにかけて、いっせいに南の海へと帰っていくコトヒキの群れを想像するとわくわくしてしまいます。
季節来遊魚と呼ばれるその他の熱帯魚たちも、そのチャンネルを利用しているかも・・・?
新春の初夢は止まりません。

[ 2018/12/29 相模湾旬の魚図鑑 その12 トラフグ ]

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