2021年05月03日
トリーター:黒川

先輩トリーターの神業

みなさんは新しいテーマ水槽は、もうご覧になりましたか?
今回のテーマ水槽は、こどもの日にちなんだ、「鯉水槽」となっています。
この水槽の中央に、ドドンと展示しているのは・・・


こちらの鯉です。
え?普通の鯉じゃん!とお思いでしょう。
実は、みなさんが普段見かける鯉と、この鯉はちょっと違います。
日本の魚と言えば鯉!と思う方もいますが、川や池で目にするのは、実は外来型の鯉なんです。

日本に古くからすむ鯉(在来型)もいますが、限られた場所にしかおらず、外来型の鯉とは見た目が少し異なります。
今回展示している鯉は、この在来型の特徴と一致している、中々お目にかかれない貴重なノゴイなのです(DNA解析を行うなどしないと断言はできませんが)。

実は、この水槽の入れ替えをおこなっている時に、私は大きな衝撃を受けるできごとがありましたので、ちょっとお話させてください。

閉館後、テーマ水槽準備中のことです。
先輩のSトリーターと一緒に、バックヤードの水槽にいるノゴイを桶に入れて、展示水槽へ運んでいる最中。

私:「水槽に鯉を入れるのに、網を持ってきましょうか?」
S:「いや、手で入れるから必要ないよ。」
・・・・・・・・・・・ え?手で入れるの??
聞き間違いかな ・・・・・。

私:「手で入れるんですか?」
S:「うん、手で入れるよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
S:「網を使うと鯉が擦れるかもしれないし、柔らかい手で入れた方が今回の場合は良さそうだね。網を洗うのも手間になるから、素手で入れるよ。俺は、生き物に良く、かつ人間も楽に!がモットーだから(キラッ)」

私は頭をフル回転させました。
鯉は力も強いし、中々のサイズなので重量もある。もちろん体面は濡れていて滑りやすい。
水槽の上から入れるから、最低でも顔の高さくらいまで鯉を持ち上げなくてはいけない。途中で鯉が暴れたら、床に落ちて大惨事に。しかも在来型に近いレア鯉。
鯉を鷲掴みにして、無事水槽に入るイメージができません。
Sトリーター、疲れて冗談を言っているのかな・・・

展示水槽に着くと、Sトリーターは床に置いた桶に手を入れます。

私:「ちょっ!私が桶を持ち上げるので、最短距離で入れましょう!!」
S:「いやいや、ここで大丈夫だから、ここから入れるよ。」

全く焦らず、鯉を包む手に集中する、Sトリーター。
ど、どうなるんだろう・・・ と私はドキドキしながら桶を押さえていました。
すると、Sトリーターは優しく鯉を手で持ち、鯉はされるがまま動かず、静かに、丁寧に、鯉を水槽へ、そっと入れました。

S:「よし」

本当に素手で鯉を水槽へ入れてしまいました!!!!
「ほらね」と、当たり前のように話すSトリーター。
こ、こんなことができるなんて!!!!びっくりです!!!!

後で話を聞くと、魚種や魚の状態を考えた上で、手の温度が伝わらないように水に手をしっかり浸して、鯉の動きを見て、「ここだ!」というベストタイミングで移動させたそうです。

生き物の知識量、ショーでの華麗なパフォーマンス、難しい仕事もそつなく完璧にこなしてしまうのに、魚や水族館に対する思いは人一倍熱い、スタッフやアルバイトさんにもファンがいて、普段から非の打ち所のない先輩と思っていましたが、この時はダイレクトに、
「凄い・・・凄すぎる・・・ めちゃめちゃかっこいい!!!!」
と思いました。
きっと鯉も「この人になら触られてもいいな。」と思ったに違いありません。
並の飼育員では絶対真似できない、多くの経験と、生き物の扱い方を熟知しているからこそできる、まさに神業。

「いつでも、自分の腕を磨くことを考えるといいよ。道具が無いとか、人手が足りないからって諦めるんじゃなくて、そんな状況でもできるスキルを自分が身につけるんだよ。自分の成長にもなるし、生き物にもより良い方法が見つかるかもしれないしね。」
かっこよすぎる・・・!!
私もSトリーターのようなプロフェッショナルにならなければ!と胸が熱くなりました。
Sトリーター、リスペクト!!!!

熱くなりすぎて、かなり勢いのあるトリーター日誌になってしまいました(笑)
そんな神業によって水槽に入ったノゴイ、水槽で堂々と泳いでいます。
在来型と外来型の見分け方も解説しているので、ぜひ貴重なノゴイをじっくり観察してみてくださいね!

テーマ水槽

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