2021年06月15日
トリーター:山本

江の島産の新種「ワタボウシクラゲ」その2

さて、ワタボウシクラゲについて、前回(2021/05/31 江の島産の新種「ワタボウシクラゲ」その1)の続きです。今回のテーマはワタボウシクラゲの「分類」についてです。
「分類」と聞くだけで「うっ…専門用語…」となってしまうかもしれませんが(私もなります)、覚えてくると、クラゲを見るだけで「どんな特徴があるのか」、「何の仲間なのか」がなんとなくわかってきて、クラゲライフが楽しくなること間違いなしです。


まず、ワタボウシクラゲを「界」・「門」・「綱」・「目」・「科」・「属」・「種」の7段階で分類すると
界:Animalia(動物界)
門:Cnidaria(刺胞動物門)
綱:Hydrozoa(ヒドロ虫綱)
目:Anthoathecata(花クラゲ目)
科:Halimedusidae(ウラシマクラゲ科)
属:Tiaricodon(ワタボウシクラゲ属(※新称))
種:Tiaricodon orientalis←これがいわゆる「学名」で、世界共通の名前です。
となります。
最初は「綱」にご注目。「ヒドロ虫綱」は、有名どころでいうとギヤマンクラゲやカツオノエボシなどが属するグループで、人気のミズクラゲやアカクラゲ、タコクラゲなどは「鉢虫綱」に含まれるため、同じ「クラゲ」と呼ばれる生き物でも、分類的にはここで分かれます(例えば人と鳥は同じ「脊索動物門」に含まれますが、「哺乳綱」と「鳥綱」で分かれるので、ワタボウシクラゲとミズクラゲは分類階級だと人と鳥くらい違うということです)。
次に「目」。「花クラゲ目」はカミクラゲやベニクラゲなど、私的には丸っこいかわいらしい種が多いイメージのグループです。

そして、私が今回注目していただきたいのは、次の「科」。「ウラシマクラゲ科」であるということです。
ウラシマクラゲ科は、ワタボウシクラゲが見つかるまで3属3種が属するグループでした。その3種とは
Urashimea globosa(ウラシマクラゲ:日本各地に分布し、江の島では春から夏にかけて出現)
Halimedusa typus(和名無し:日本で出現なし)
Tiaricodon coeruleus(和名無し:日本で出現なし)
です。そこに、4種類目としてTiaricodon orientalis(ワタボウシクラゲ)が新たに仲間入りしました。属名は「Tiaricodon」ですので、元々いた3種類のうちの一種、③Tiaricodon coeruleusの仲間であるということです。

今回の論文を作成する際、まずは既に知られていた近縁種Tiaricodon coeruleusを徹底的に調べました。
先ほど言ったように日本では出現しない種ですので、当然日本語の図鑑などには載っていません。また、記載されたのは1902年とそこそこ古いため、スケッチはあるものの写真がなかなか見つからない(今はネットで調べると出てきます!)…文献が昔のもの過ぎて手に入らない…これが本当に大変でした。
そんなこんなでかき集めた情報によると、Tiaricodon coeruleusはこれまで4回分類が変更されていることが分かりました(詳しくは論文まで)。普段㎜単位の小さいクラゲばかりを扱っている我々としては、1㎝を超えるクラゲはどちらかというと「大きいクラゲ」という感覚です。4回も分類が変えられているということは、世界でもそれなりに目立っている種類だったのですかね。私はまだTiaricodon coeruleusの実物を見たことが無いので、ぜひとも見てみたいです。

…はい、長々と書きましたが、結局何が言いたいのかというと
・ワタボウシクラゲは「ウラシマクラゲ科」に含まれ、日本では「ウラシマクラゲ」↓と近縁

・ウラシマクラゲよりもより近縁な「Tiaricodon coeruleus」というクラゲがいる
この2点です。これだけでも…! これだけでも覚えていただけたら幸いです…!
個人的にこの「ウラシマクラゲ科」は、江の島にとってなんとなく特別なグループである気がしています。みなさまにクラゲの最新情報をお届けするためにこれからも調査研究を続けます!
現在クラゲサイエンスで展示中のワタボウシクラゲですが、最近結構な数採集できたため、展示水槽にマシマシ中です。なるべく長く展示できるように頑張りますので、“えのすい”に来た際はぜひともクラゲサイエンスまでお越しください!

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