ナデシコクラゲ Earleria purpurea は、2011年に米国のモントレー湾水族館とモントレー湾水族館研究所が水深 300~550mでクラゲを多数採集して、そこから繁殖させることに成功し、2016年にモントレー湾水族館で展示されました。Earleria purpurea は標準和名がありませんが、クラゲの口唇が撫子の花のようにみえることから、ここでナデシコクラゲとします。
東日本大震災からほぼ 1年後の2012年3月8日、岩手県山田町沖にて、海洋研究開発機構の研究船「かいれい」による KR12-07航海、ROV「かいこう7000 l l」の第 548潜航調査が行われ、当館スタッフも乗船しました。北里大学海洋生命科学部 三宅 裕志准教授らの研究グループは、この航海の目的の 1つであった深海底における海底ごみの生態系への影響の研究のために、水深 1.127mに空き缶を発見し回収しました(賞味期限 1984年 5月)。どのような生物が付着しているのかを調べるために、水槽でしばらく空き缶にプランクトンを与えて飼育したところ、クラゲのポリプが増殖しました。このポリプからクラゲを育て形態観察し、さらに遺伝子解析したところ、日本では見つかっていなかったナデシコクラゲであることが分かりました。
クラゲ類のポリプを自然界で見つけることは非常に難しいのですが、本研究で、ナデシコクラゲのポリプが水深 1,127mに生息していることが明らかになりました。
また、水深 1,127mに生息していたポリプを研究室及び水族館で維持管理し、育てたクラゲを状態良く水族館で展示するのは、世界初だと思われます。
さらに水深1,127mに沈んだ海底ごみがポリプの着底基質になっていることも明らかにしました。私たちの生活から出たごみが、遠く離れた深海の生態系にも影響を与えているという事実が明らかになったのですが、逆に海底ごみを回収して、飼育していると深海生物を増やすことができ、その生態を明らかにできることも分かりました。これらの成果は、米国の出版社のクラゲ特集号に掲載予定です。
新江ノ島水族館は、JAMSTECと深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究を行っています