2009年02月27日
トリーター:伊藤

泥の海を訪ねて( 1)


真冬の干潟に驚異の珍種

キイロホソゴミムシ。
この生物を初めて知ったのは水族館に務める前、干潟の昆虫を調べる仕事をお手伝いした時でした。
当時、私に昆虫のことを教えてくれた先輩は、この干潟のどこかにその昆虫がいるかも知れない、もう世界中で数か所しか生息していない大変希少な虫だから、見つかればすごいことだ、と嬉しそうに語ってくれました。
そして真冬の広大な干潟を何日も探しに探し、まさかのこの虫と出会えたのでした。
その時の感動は今でも夢に見ます。

昆虫は地球上でもっとも繁栄した生物ですが、海の周辺に進出した種はごくわずかです。
海水中では気門が機能しないとか、他の無脊椎動物に負けてしまうとか、説はいろいろあるようですが、はっきりしません。
キイロホソは関東地方のごく一部、それも海水の入り混じる干潟ヨシ原の局所だけに見られる珍種です。
大きさは 1cm弱と小さいですが、カマキリのようにのびた頭胸部がカッコよく、日光に照らされた黄色から橙色の体は黄金に輝き黒い泥地でよく目立ち、大変に魅力的です。
本種の生息地は東京などで絶滅してからは長らくただ 1か所、千葉県小櫃川河口だけだといわれていました(最近では調査の甲斐もあり、何か所かで採集されています)。

先日、お休みを利用してその小櫃川へと行ってきました。
過去にも何度か足を運んだ場所ですが、一度も本種に出会えたことがなかったので、今回こそはと普段はかけない眼鏡をかけて、いざ極寒のヨシ原へ。
干潟の中で泥に足を取られたり、ヨシに眼鏡を弾き飛ばされたりしながら徘徊すること 30分、打ち上げられた流木をめくって越冬中の本種とご対面することが叶いました。
とことこと動き出したので泥に構わず四つん這いになりながら写真を撮り、一部を研究飼育用に採集しました。
小さな生物なので、展示飼育可能かどうか、まだ分かりませんが、本種の生態はほとんどが謎のベールに包まれています。
その謎具合ときたら、チョウチンアンコウにも負けません。
慎重にデータを集めていきたいと思います。

・・・というわけで、今年の 5月に 2年ぶりにテーマ水槽を担当させていただくことになりました。
3年前はカエル、2年前は田園の生き物、そして今回はちょうど潮干狩りシーズンということで干潟です。
毎度渋いテーマを選んでいますが、みなさまにその魅力を少しでも多くお伝えすべく頑張りたいです。
今後も準備を進める中で興味深い話題をこちらの日誌でお伝えしていこうと思います。

珍種キイロホソゴミムシ珍種キイロホソゴミムシ

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