私にはソコソコ立派な胸毛が生えていますが、なんの役にも立ったことがありません。
しかし深海には胸毛を使って生きる生物がいます。
それが“胸毛の農夫”ことゴエモンコシオリエビなのです。農夫といってもオスばかりではありません。メスにもモサモサ生えています。
この胸毛、生物学的な専門用語では“剛毛”といいますが、その名の通り、体の大きさの割には太い毛が胸(歩くあしの付け根あたり)にビッシリ生えております。
ただ生えているだけなら私と変わりませんが、彼らはなんと胸毛でバクテリアを育てているのです!しかもそれを食べるのです!
じゃ、どうやってバクテリアを育てるか?
彼らが棲んでいる所に秘密があります!
彼らの生息地は海底温泉の周辺。温泉といえばあのタマゴのような臭いですね。
あれは近くで茹でている温泉玉子の臭いではありません。硫黄の臭いなんです!
温泉などに含まれる硫化水素があの臭いのもととなっていますが、海底の温泉も硫化水素が含まれていたりします。
ゴエモンコシオリエビは海底温泉の周りで、硫化水素で増えるバクテリアを胸の剛毛で育てて食べているようなのです。
ただ、ゴエモンコシオリエビが何を主食として生きているのか詳しいことはよくわかっていません。まだ謎なのです。
どうやったら詳しいことがわかるのか?
胃の中の物の遺伝子や脂肪酸などを調べればわかるかもしれませんが、そんな物を調べる機械は水族館にはありません!
水族館は水族館らしく飼育して観察して謎を解くのが一番!ということで、このゴエモンコシオリエビの飼育実験を現在進行中です。
展示しながらやってますので見て見てくださいね!
さてさて、いったいゴエモンさんたちはいったい何を食べて生きているのでしょうか。
エサはバクテリアと普通のエビや貝。
私は王道のバクテリアにこだわって実験しているのですが、このバクテリアを胸毛に生やすのが結構難しいんですよ。
水中に硫化水素を入れるのですが、濃度が難しくて、濃すぎるとバクテリアは生えるがゴエモンさんが死んでしまうし、おまけに水が牛乳風呂みたいに真っ白に濁っても見えなくなってしまいます。
薄いとバクテリアは生えません。
丁度いい濃度を探して、その濃度を維持しなくてはいけません。
いろいろ実験を繰り返した結果、ソコソコうまく制御できるようになってきたのですが、どーも取れ立てのゴエモンさんに比べ、モサモサ感が足りないんですよね。
何かが足りないんでしょうねー。うーん、何でしょうね?
このゴエモンコシオリエビの飼育方法は、日本の最大の深海研究機関『JAMSTEC』でも現在研究中です。
さすがにこちらはローテクですが、飼育係として負けないように頑張りたいですね!
深海コーナーでいつでも見られますので見にいらしてくださいね!
現在は毛にバクテリアをつけたゴエモンさんと、何も付いていないゴエモンさんを比較実験をおこなっているので、両方ご覧になれますよ!深海ファンは必見です!
新江ノ島水族館は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と深海生物の長期飼育技術の開発に関する共同研究を行っています。