2015年07月19日
トリーター:杉村

飼育係のお仕事 その 2 お魚のお世話の工夫「キアンコウ編」その 1

キアンコウキアンコウ

前回のトリーター日誌では「強制給餌」についてお話ししました。
聞こえは悪いですが、餌を食べずに体調を崩してはいけませんから無理にでも食べてもらわなくてはなりません。
今回もちょっと強制給餌のお話は出てきますが、飼育展示するまで時間と工夫を凝らした「キアンコウ」について紹介します。
展示公開するまでには、幾つかの越えなくてはならないハードルがあるんです。

その前にキアンコウについて。
キアンコウは、水深 500mまでの砂泥底で生活しており、海底では頭の上にある「エスカ」という疑似餌を振って、魚などをおびき寄せて近づいてきた瞬間に海水ごと吸い込んで食べています。
海面まで上がってきて「カモメ」を食べたという話を聞いたことがあります。
・・・という話しを聞くと、顔もいかついので獰猛なイメージを持たれるかと思いますが、実は外見やエピソードとは違って、実はかなりナイーブな魚なのです。
得てして、キアンコウように待ち伏せして餌生物を捕える魚は、ナイーブな種が多いです。

第 1のハードル「水槽で餌を食べる」
このキアンコウ、やっぱり水族館に来てすぐには餌を食べて・・・はくれません。
まずは、環境に慣れさせるために水槽に黒い蓋をして暗くしてあげます。
その数日後、少し慣れたところで小型の魚類を活き餌として与えてみます。
これで食べてくれれば、もうハードルを一つクリアです・・・が、大概は食べません。
(時々食べることもあります。)
では、どうするのか。
やはり体力維持のため、強制給餌をおこないますが、前回の方法とは違います。
ペンギンに与えている「ニシン」を 1~ 2匹分けてもらい、ピンセットでつまんで食道の入り口まで運んであげます。
キアンコウの食道の入り口には、咽頭歯と呼ばれる奥歯のようなギザギザがあって、ニシンが触ると、咽頭歯で掻き込むように飲み込んでくれます。
これを何度か繰り返して、環境に慣れさせつつ体力をつけてもらいます。

隠れた第 2のハードル「病気・怪我の治療」
今回は、体に擦れキズもあったので、治療もおこないました。そのため落ち着くまで時間がかかりました。
約 1か月半後にやっと活き餌を食べてくれました。
これで第 1と第 2のハードルを越えました。

第 3のハードル「保存してある魚を食べる」
展示できないわけではありませんが、生餌だけにしてしまうと活き餌が入手できなくなると大変ですので、他の魚たちと同じように冷凍保存してある魚に切り換えていきます。
ここでちょっとし工夫を凝らします。
釣り糸に魚を付けてルアーのように動かして、まるで生きているかのように見せてあげます。
少しずつ、活き餌の間隔を調整しながら釣り給餌をチャレンジすると、そのうちエスカを振って活き餌と勘違いして食べてくれます。


エスカ

釣り給餌に慣れるまで数週間。
第 3のハードルを越えました。
これでようやく展示公開というわけです。

キアンコウが水族館に来てから、展示公開するまで 2か月ほどかかりました。
実はこの後、長期飼育への最後のハードル「展示水槽で安定して餌を食べる」があります。
今回は 1週間程度で展示水槽の中で魚を食べてくれてました。
私たち飼育係の根気が実った瞬間ですね。
後は、安定してくれることを祈るだけです。
フラッシュや携帯のライトなどの強い光にも神経質ですので、ご覧になる時は強い光など当てないよう、温かく見守っていただけるととっても嬉しいです。

現在、展示飼育しているキアンコウは、魚類チームの鈴木トリーターが根気強く頑張ってくれた結果です。
鈴木トリーターに感謝です。

どうぞ、私たちトリーターの愛情のこもった生物たちに会いに来てください。
お待ちしています。

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2015/ 05/ 27 飼育係のお仕事 その 1 お魚のお世話の工夫

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