少し前に、小さな昆虫の展示を紹介したのを覚えていますか?
関東地方の河口干潟に特産する絶滅危惧種キイロホソゴミムシ。
展示終了後、バックヤードで飼育観察を続けていました。
早速ですがこの写真を見て下さい。
ピンぼけですが分かりますか?
えっ?何が?
昆虫に詳しい方ならお気づきですね?
そう、口元です。あっ?何か食べている!
本種の生態や飼育を考えるうえで、食性が不明、というところがネックだったのです。
ゴミムシ類の多くは、お刺身でも肉団子でも与えればがっつくことが多いのですが、本種はそうではありません。昆虫ゼリーや豚肉を食べたという情報があるので真似してみたり、生息地に一緒に見られるワラジムシ類やらカワザンショウガイ類やらも与えてみましたが、食べる現場はおさえられませんでした。
一方で写真のエサ、水槽に入れるや否やゴミムシがそわそわ徘徊しだしました。触手をぶんぶん振りながら(いかにも探餌してるっぽい動き!)、ガブッとくわえ、モグモグ口元で転がしながら、歩きながら食べ続けたのです。複数の個体で同様の行動が観察されましたので、偶然ではなさそうです。
本種が積極的にモノにかぶりつく(≒好きな食べ物である)行動は、ほとんど記録がないのではないでしょうか。
情けないことに、昆虫分野の研究に関する私の情報網はスカスカなので「そんなのとっくの昔に明らかになっていますよ」と専門の方からいわれてしまう可能性もあります。
逆に、本当に貴重な観察例である可能性もありますので、大事な部分はまだヒミツです。さて、野菜なのか肉なのか。写真から白くて、柔らかそう、くらいは分かりますね。ヒミツです。一つ明かせば、売っているモノです。自然下で食べているモノと違うかも知れません。ここまでにしておきましょう。
昆虫の中にはカイコガやカブトムシのように、繁殖のために成虫になってからの栄養補給が必須でない種も多々ありますが、本種の繁殖には、成虫になってから(特に冬眠明け?)の栄養補給が重要なようです。そう遠くない将来、適切な餌を与えることで本種が飼育下で殖やせるようになるかもです。
生物を守る時に、絶滅させないことの重要性を切に感じることがあります。生息環境の把握とその保存に加え、万が一の際の飼育下による種保存が効いてきます。余談ですが、キイロホソゴミムシを展示していたキッズ水槽左端では、現在コガタノゲンゴロウを展示しています。この種は、飼育繁殖技術が確立されています。
本種も日本産大型ゲンゴロウ類の例にもれず高度経済成長期に激減し、神奈川県から絶滅しました。ところが、近年になって再び個体数を殖やして分布を拡大していると言います。ほんの数十年の出来事ですから、驚くべきスピードです。私が生きているうちに、再び神奈川県で目にできるかも知れません。ぜひご覧ください。