2017年09月13日
トリーター:戸倉

まもなく大海原へ!

黄色いタグを付けた姿黄色いタグを付けた姿

みなさんは、ウミガメの浜辺のアオウミガメプールの一角に網で仕切られたエリアがあるのをご存知でしょうか?
その中に 1頭のウミガメがいます。
上から覗かないと見えないのと、浜辺の下に降りてしまうと見えなくなってしまうため、気が付かれた方は少ないと思います。


矢印で指した角にいます。

ここに居るのですが、分かりませんよね?
ここに居るのは、2016年 11月 21日に茅ヶ崎漁港の入口付近で漁師さんに保護されたアオウミガメです。
ふらふらと水面に浮いているところを捕まり、「ウミガメを保護したんだけど!」と水族館に連絡がきました。
衰弱が激しいため水族館で保護し、元気になったら放流する事を前提に収容することとなり、10か月が経過した現在、元気を取り戻したため、いよいよ 10日後の 9月 22日(金)に放流することとなりましたので、これまでの経緯も含め、簡単にご報告をさせていただきます。


漁港に置かれたようす / 車で水族館に搬送中

ちょっと変わった甲羅の縁をしているので、??と思いましたが、アオウミガメということで引き取りました。
保護された時の甲羅の長さは 42.3cm、体重は 10.3kgでした。
甲羅の大きさからすると、そろそろ生まれ育った海域に戻り、島の沿岸生活に入ってもよい頃ですが、「なぜ11月にこんな所をふらふらしていたのかな?」なんて車の中で思いながら連れて来ました。

衰弱が激しく、自力摂餌するまで 2週間かかりました。
その間、脱水症状を回避するために補液を頸部より注射。海藻やエビなどを摂餌し始めた時はホッとしました。
検疫を兼ねて他のウミガメとは隔離して飼育をしていたのですが、2か月後の 2017年 1月 21日にバックヤードのウミガメ予備槽に収容。だいぶ元気を取り戻してきた5月の大型連休頃から日光浴のため外のウミガメプールを一部仕切って出しました。
これは紫外線に当てて甲羅の形成をしっかりさせるための処置なのです。
しかし夜間は心配なので屋内に収容していましたが、8か月後の 7月 19日より外のプールに出しっぱなしになっております。

ただ、ずっと隔離したエリアに収容したままにしています。これには訳があり、放流を前提として飼育しているため、寄って来るためのターゲットトレーニングを施していないので、一度広いプールに放してしまうと寄って来なくなる可能性があり、摂餌や定期的なプロポーション測定ができなくなることが懸念されているからなのです。


個体管理用のチップを後肢に埋め込んでいます。

そして、放流日が決まってからは、それに向けての準備を始めています。
放流した後、この個体がどこかで目撃または採捕された場合、新江ノ島水族館が 2017年9月に放流した個体であることが分かるように「タグ」を付けました。
前肢、後肢には見て分かるような番号入りのジャンボタグを装着し、成長と共に何らかの理由でこのタグが物理的に取れてしまっても、更に体内にも(取れる事の無い)小さなチップを埋め込むことによって、個体識別を可能にしています。(このチップは専用のリーダーを近付けると番号が表示されます。)


矢印が見て分かるジャンボタグ

放流前にも最後のプロポーション測定を行いますが、保護から 9ヶ月後の先月 8月22日には、甲羅の長さが 45.3cm、体重は 12.3kgでしたから、甲羅の長さが 3cm、体重が 2.0kg増えています。
9月22日まであと10日ほどとなりましたが、台風18号が通り過ぎ、海況が穏やかな事を祈ります。
放流場所は相模湾の沖合(定置網などに入網しない様に更に沖合)を予定しております。

10ヶ月前に茅ヶ崎に迷い込んでしまい、命辛々人間と共に不思議な 10ヶ月間を過ごしましたが、再び海流に乗って大海原を回遊し、生まれ育った海域に無事戻れることを、ただただ祈るばかりです。その頃には人間との事は忘れて野性を取り戻していてほしいですね。

ウミガメの浜辺に降りる階段の入口から見下ろすと、この子を見る事ができます。
残り日数がわずかですので、お気を付けください。
※放流のようすは、また今度報告をさせていただきます。

ウミガメの浜辺

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