2021年01月07日
トリーター:伊藤

コロナ禍中の研究その後

ウツボを掃除するゴンズイウツボを掃除するゴンズイ

新年が明けても心配な日々が続きます。

さて、昨年の春、新型コロナ第1波中に、それまで滞らせていた研究を再開したと書きました。( 2020/04/29 在宅研究

その後日談ですが、昨年の夏から年末にいくつか世に送り出すことが叶いました。禍中にも関わらずご協力いただいた方々には、心から感謝です。( 研究発表 )

出せた中で最も思い入れのある研究を紹介します。ゴンズイとホンソメワケベラの掃除行動の観察です。内容は論文そのものを読んでいただくとして(ググっていただけたら読めます)、ここでは裏話などをメインに書いてみます。

このデータを集めたのは、なんと今から12~14年前、私が新人の頃です。
ほんとに不器用で、日々与えられた作業をこなすだけで精一杯。「業務中に研究」なんてとんでもありませんでした(妙な言い回しです)。当時も大水槽の担当で、掃除やショーで今の5倍以上は潜っていた気がしますが、作業ついでに魚たちを間近に見られて楽しいものでした。
私はどちらかと言えば、特定の個体に思い入れるより、その種が本来持っている生態に興味があります(ドライだと揶揄されることも…)。なので、餌をねだって寄ってくる大型の連中よりも、ちょこまかと掃除行動をしているホンソメワケベラに目が行きました。南の魚のイメージがあり、相模湾の魚に対して掃除するようすが新鮮でした。

気付けば作業のついでに、その行動を記録し始めていました。「いつの間にそんな記録をしていたの?」と問われますが、作業中にメモ帳なんて持ち込めませんでしたから、水中で見たことを暗記しておき、作業が終わってから急いでメモっていたのです。そのうちにゴンズイも掃除行動をしていることに気付きまして、同様に記録を始めました。
これらの結果は、上司からのすすめもあり、当時の水族館関係者の研究会で口頭発表する機会を得ました。


クエを掃除するホンソメワケベラ

突然ですがここで「研究ビギナーあるある」。
口頭発表を終えた段階で、つい満足したり、精根尽き果ててしまいがちなのです。しかし、研究として口頭発表は道半ば(研究者によっては「スタートラインに立ったばかりだ」とみなすでしょう)。
私が思うに、内容の永続的な公表になっていないからです。新しい知見は誰でもいつでも見られる形で公表しないと、それを元にした次の研究が進展しません。公表の手段として、将来的には動画などが主流になる可能性もありますが、現状は文章、すなわち論文(や特許)があるわけです。

また、何年もデータを放っておくと、モチベーションも下がります。私のゴンズイのデータも、コロナ禍きっかけの在宅期間がなければ、そのまま腐らせてしまったかも知れません。禍中にあって、静かにテンパりながらも、着手できたのがせめてもの救いとなりました。

関係した話をもう一つ。
昨年の秋、全国の博物館の関係者で「コロナ禍との向き合い方」を話し合う機会がありまして、他園館でも似たようなケースがあったことを知りました。つまり、対策としてショーやイベントの休止などがなされた結果、個々の学芸員が業務にかける時間配分が変わり、特定の業務に集中できたり、なかなか進められなかった業務(収集だったり研究だったり)が捗ったりした、というのです。
それぞれ、館の行く末に不安を募らせながらではありますが、わずかばかりの光明を見たような気がしました。

まだまだコロナ禍とともに進まねばならない日々が続きますので、博物館としての社会的機能を高め、人々に必要とされる施設と人材を目指し、何とか適応していきたいところです。
そして、楽しい人生を送るには心身の健康が大前提です。ご自身とご家族、お仲間のことを考え、臨機応変に対策していきたいです。そして今現在、病床におられる方の回復を祈らずにはいられません。

新年からとりとめのない長文となりましたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。

RSS