2023年09月05日
トリーター:八巻

自然に声を出す

みなさんこんにちは、八巻です。
みなさんは声を出すことについて、真剣に考えたことはありますか?
きょうはヴォイスクラスという、“えのすい”でショーメンバーを中心に定期的に取り組んでいるクラスについてお話をしたいと思います。

きょうもちょうどヴォイスクラスで、私含め10人ほどのえのすいトリーターが、声の専門の先生のレッスンを受けました。クラスでは指導してくださる先生から、自然に声を出すための体の動き、力の抜き方、発声のしくみなどのレクチャーを受けつつ実践します。
声の出る仕組みを理解したうえで取り組む実践はとても効果的ですし、レッスンはとても楽しいです。何よりヴォイスクラスでおこなったことを継続して日々の生活に取り込み、自然に身につけることが最大限クラスを活かす方法だと思っています。
若輩者の私がおこがましくも分かったようなことをいうと先輩トリーターに叱られそうですが...ヴォイスクラスでは大きな声を出す、ショーのための声を作る、流ちょうにしゃべるという視点ではなく、「自然に声を出す方法を知る」ということに重点を置いているように私は理解しています。
ヴォイスクラスの他にも、“えのすい”には自然な立ち姿や動きを学ぶボディクラスもあり、私も定期的に受けています。ショーの中で私たちが感じた面白さや感動を自然に伝えるには、これらのクラスを通してショーと構えずに自然に伝えること、自然にできる身体作りが大切だからなのだと思います。

今回の日誌の冒頭の質問、「声を出すことについて、真剣に考えたことはありますか?」という問いですが、実は私は声を出すということについて、大昔から真剣に考えてきました。というのも、私は小学生のころからいわゆる吃音(きつおん)という、特定の音を第一音として出しにくいという悩みを抱えていて、その悩みの解決を30年以上模索してきたからです。
昔から言いにくい言葉が必ず含まれる決まった文章を“読む”音読が嫌いでしたし、今でも言いにくい決まった言葉から“話し出す”電話がとても不得意です。ずっと見ないふりをして、言いにくい言葉の言い換えなどで何とかやり過ごしてきたわけですが、水族館の飼育員という仕事をするようになって、特に“えのすい”に来てからは、どうしてもショーなどを通じて人前で話す機会が増えてきてました。
ですから、おのずとこの悩みとも向き合わざるを得なくなってきたわけです。
私は元々物事を根本から科学的に理解したいという想いが強いので、“えのすい”に来る少し前から、吃音と向き合うために言語聴覚士の先生にかかり、吃音の仕組みについて、理解できるよう努めてきました。残念ながら吃音のメカニズム全体の理解は現代の医学をもってしても未だなされていませんが、声を出しにくくなる物理的な原因は声帯に力が入りすぎることであることは知られているようです。ですから声帯に力を入れすぎず抜きすぎず、丁度良い塩梅でコントロールすることが、言いにくさを解消する物理的な方法のひとつです。
意識して声帯に入る力をコントロールするということは並大抵の努力ではできないですし、緊張や習慣が複雑に絡み合い、なかなかイメージ通りにはいかないわけですが、ヴォイスクラスで身につけようとしている“自然に”声を出す方法もこれに非常に近いと感じています。

私は話すことは確かに苦手ですが、元来人に何か面白い思ったことを伝えたり、議論したり、コミュニケーションを取るのは好きで、学生時代からたくさんの人と関わって研究や仕事をすることに楽しみを見出してきましたし、いまではそれが生きがいです。
ですから、話すという決して嫌いではないけど苦手な手段をより良くするため、声を出すことについて考えることは、踏み出してしまえば前向きに取り組めるものでした。
ヴォイスクラスで目指す「自然に声を出す方法」は、ショーを通じてみなさんに生き物の面白さや感動を伝えるための手段です。おそらくよどみなく“うまく”喋ることが必ずしも自然な驚きや感動を伝える方法ではなく、私にとっての喋るという苦手意識克服の先に垣間見える世界と一致しているように思えるのです。

ショーは生き物の魅力を伝える一側面に過ぎないかもしれませんが、そこにクラスを設けて真剣に取り組む“えのすい”とえのすいトリーターの一面を知っていただけたら幸いです。

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