2023年10月01日
トリーター:小森

アカウミガメの子ガメたちが相模湾へ旅立ちました!

昨年、“えのすい”として初めて繁殖に成功したアカウミガメ。多くは生まれたその日に自然に近い形で放流しましたが、2個体だけ「ヘッドスターティング(短期育成放流)」という形をとることにしました。

ここで基礎知識のお話を。
アカウミガメはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは絶滅が危惧されている「危急種」に指定されています。
“えのすい”でいうと、他には「コツメカワウソ」や「フンボルトペンギン」、サメである「ツマグロ」なんかもそうですね。
どうして絶滅の危機があるのかというと、その理由は動物によってさまざまです。乱獲だったり餌となる資源が少なくなっていたり…。アカウミガメの場合は産卵場所の減少が理由の一つとして挙げられています。

みなさん、だんだんと海岸線がなくなってきていることはご存知ですか?
コンクリートで固められてしまったり、海水面の上昇で砂浜がなくなったりとこれまた理由はさまざまなのですが、こうした理由によりアカウミガメが産卵できる砂浜がなくなってきているといわれています。
他にも、私たち人間の活動時間帯が深夜まで及ぶことにより、暗い浜辺が減少し、安心して産卵できる場所が少なくなっているともいわれています。

現に、この相模湾でもアカウミガメの産卵数は減ってきています。
“えのすい”に残っているデータを見ても昔はよく産卵巣調査に出ていたようですが、近年は上陸したという情報そのものがほとんどありません。切ないですね。

そんなわけで、少しでも個体数の回復を図るために各施設で繁殖・放流を行っているのですが、やはりそこは自然界。元気よく海に旅立ったとしても生き残ることができる確率は非常に低いのです。

そこでもう一つの方法として挙げられているのが最初に書いた「ヘッドスターティング」という繁殖方法なのです。
これは生存率の低いふ化直後~生後1、2年の間を飼育下で育成し、生存率が上がるころに放流するというものです。

とはいえ、これも非常に難しい方法で、なによりも大前提としてウミガメを健康に育成しなければなりません。
この1年間、何度も獣医にお世話になりながら飼育水温やごはんの内容を都度確認し、なんとか大きく育てることができました。かわいいとか、楽しいとか、そんな感情はあまりなかったですね。体調を崩さないか、死んでしまわないかという不安と怖さが私自身ずっとつきまとっておりました。

今回、放流の場に立ち会わせていただいたのですが、私が懸念していたのは通称 No.9と呼んでいる個体の性格。この子、とにかくおっとりなんです。

No.7はオラオラ派なんですがね。

両親(母:ジロウ、父:ノア)は2頭ともオラオラ派なのにみんながみんなそうなる訳ではないようです。それぞれ性格が出て面白いですね。

さて、放流本番、まずは No.7を入水させます。緊張しながらおろすと、何も心配することなく南に流れる潮に乗って元気よく泳いでいきました。

そしてお次は少し心配な No.9。

こちらも同じく緊張の中放流しましたが、こちらの心配はよそに力強くあっという間に潮に乗っていきました。一応、すぐに浮かんだりしないか双眼鏡も持って行ったのですが、No.7も No.9も浮かぶことなくぐいぐい進んで行きました。

これから20年、30年の時間をかけて無事に大きくなってくれたなら、きっとどこかで相手を見つけて子どもを作っていくでしょう。
そんな未来が来てくれることを祈っています。そして、その時には環境が今より悪化する事が無いよう、願わくば良くなってくれていることを望みます。
No.7、No.9、本当にありがとう!! いってらっしゃい!!!!


…余談…
放流する場はアカウミガメの回遊ルートである沖のため、初の乗船に吐かないか不安もある中どっぷんどっぷん揺られながら行ったのですが、無事に2頭を見送って波が穏やかになった港近くで一気に吐き気に見舞われました(笑)
きっとアドレナリンが出まくっていたのでしょう。アドレナリン、すごい。

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ウミガメの浜辺

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