2023年10月23日
トリーター:杉村

深海担当の心躍るとき・・・

一昨日、広島大学の豊潮丸の調査航海から帰ってきました。
調査航海日誌は、フィールド調査で随時更新していきます。
興味のある方は、そちらをご覧ください。

きょうは調査のお話ではなく、「深海担当の心躍るとき・・・」というタイトルでつづっていきます。
深海担当というか・・・ “私” の心躍るときですね。
それは、ゴエモンコシオリエビ(以下ゴエモン)に再び会えたことです。
ゴエモンの飼育研究が、再びできると思うととてもうれしく、わくわくします。

・・・既に今月 10日より、深海Ⅰにて飼育研究のようすを公開中です。

前回の飼育が 2021年7月までで、実に2年3か月ぶりのゴエモンたちです。
JAMSTEC と共同での分散飼育になります。

前回の飼育は 956日(2年7か月)で、これまでの最長飼育の 1,193日(3年3か月)に次ぐ、飼育日数でした。
飼育当初は、数日間の飼育でしたが、JAMSTEC との共同研究での試行錯誤の結果、年単位の飼育が可能になり、今では脱皮をする個体もかなりの数になってきました。
ゴエモンといえば胸毛にバクテリアを増殖させて、それを自らの食料としていることで知られている深海生物です。
彼らの飼育は、ゴエモンを飼育するというよりは、いかにして胸毛にバクテリアをいっぱい増殖させられるかという飼育です。
深海から採集されてきたときは胸毛にべっとりバクテリアが付いていますが、輸送中に環境が変わるとバクテリアは途端にいなくなってしまい、白かった胸毛は薄黄色くなってしまいます。
ですから、飼育水槽内でバクテリアの増殖する環境を再現できるかが鍵です。
・・・バクテリアの飼育・・・という感じですね。

“えのすい” では、硫化ナトリウム水溶液を添加して硫化水素を発生させています。
※硫化水素ガスは、とても危険なので直接は使用しません。
また、海水中でバクテリアが硫化水素を利用しやすくする(化学合成)ために二酸化炭素なども一緒に添加していますが、水質が安定するまでは、調整の毎日です。
現場の水質データを元に、各パラメータを近い数値にしていきます。
安定してくると、ゴエモンの胸毛はもちろんですが、水槽の壁や岩などにも白いバクテリアが付くようになってきます。
こうなってくれば、後は定期的な測定から、数値を見ながら微調整していくだけです。
※午後一番に、深海Ⅰのガラスの向こうでトリーターが水質の測定をしていますよ。
現在はなかなか目標数値に達してはいないのですが、徐々に白くなってきているので、もうちょっとというところですね。
ゴエモンたちはとても動きがゆっくりで、浅海の生き物のように状態を判断するのが難しいので、常に小刻みに動く触覚と胸毛のバクテリアのようす、そして水質データを元に状態を把握していきます。
白い胸毛になってくると、「よしっ!」と一人ガッツポーズです。

毎朝ゴエモンたちを見るのが楽しみです。
飼育が長期にわたるようになりましたが、まだまだ2~3年です。脱皮後の成長などから考えると、まだまだ全然長く生きると考えています。
今回も飼育環境をいろいろ試しながら、より良い環境を作りあげて、ゴエモンの産卵や幼生の採取など、生活史の解明に一歩一歩近づいていければと思います。

日々、努力と研究ですね。
ぜひ、みなさんにもゴエモンたちに興味を持ってもらえてらうれしいです。


新しい生き物たち
2023年10月10日 胸毛で育てたバクテリアを食べる「ゴエモンコシオリエビ」

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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