2024年02月07日
トリーター:八巻

メンダコチャレンジ 2024

みなさんこんにちは! 八巻です。
今回はえのすいで最近話題のメンダコについてのお話。先日おこなったメンダコの採集についてご紹介します!

毎年この時期になると駿河湾の底曳網漁に乗せていただき、深海生物の採集をおこないます。底曳網漁はアマダイ類や深海エビ類などをねらった漁です。特に駿河湾では底曳網漁が盛んで、湾内のいろいろなところで底曳網漁が行われています。
私たちは定置網を中心として、刺し網、延縄、カニかご、一本釣りなどさまざまな漁師さんにお世話になり、漁で漁獲される生物のうち、水揚げされないものを中心にいただいて飼育・展示しています。

底曳網漁もそのひとつです。春から秋口にかけては禁漁となり、寒い時期のみ乗船することができます。私たちは深海生物に比較的ダメージが少ない、表層の水温が下がる1~3月を中心に船に乗せてもらっています。
ですから冬になると、そろそろ底曳きの季節だなぁとわくわくしてくるわけです! しかし、最近の約3年間は新型コロナウイルスの影響もあり、底曳網漁への乗船がかなわない年が続いていました。私自身同じ期間底曳網漁への乗船はしておらず、今回本当に久しぶりに乗せていただくことができました。

漁の出航は5時半ごろ、まだ暗いうちに出航です。漁場につき、夜が明けるころ、富士山がきれいに見えました! 江の島からみえる富士山とは違い、宝永山の出っ張りが目立つのです。これを見ると駿河湾に来たなぁ!という気分になります(写真 1)。

写真 1写真 1

漁は底曳き網を海に展開、沈むまで待ち、曳いて網を巻き上げるという作業の繰り返しになります。大体展開してから巻き上げが終わるまで1時間から1時間半ほどで、巻き上げるたびに底曳網の一番先端についている袋網の部分に生物がたまって漁獲されるというわけです(写真 2)。私たちはこの網であがってきたたくさんの生物中から、いかに素早く目的の生物をピックアップしてストック用容器に入れることができるかが、この採集での限りなく大切な部分になります。

写真 2写真 2

もちろん漁師さんの作業の邪魔になるようなのことはしてはいけませんし、何より安全最優先で作業を行います。ですから、ここの作業は拾うだけのように思えますが意外と経験が大切な作業です。今回は黒川トリーターと採集に行きましたが、初めて乗船する彼女には、とにかく安全に作業を行うように指示をして、全体をみてもらうことも兼ねて、記録をとることを中心に動いてもらいました。

漁がはじまれば、あとは良い生物が入るのを祈るのみ! 今回の一番の狙いは、もちろんメンダコです! メンダコは御存じの通り、本当に柔らかい水風船のようなものなので、混獲される生物のなかでもとりわけ弱い生き物といっても過言ではありません。ですから最優先で探します。

今回は1回目の網からメンダコを発見、早速採集! そして2回目の網にも入っていて、合計2個体のメンダコを採集することができたのです。メンダコはすぐに遮光した容器に入れて、全体のストック容器に収容、そのまま持ち帰りました(写真 3)。

写真 3写真 3

2個体とも状態は比較的よく、翌日から展示することができました。最初の難関はこの採集時のダメージを乗り越えられるかどうか、その全てはメンダコをいかに早く発見できたか、他の生物に押しつぶされてしまっていなかったか、そこにかかっています。

結果的には1個体のメンダコは3日後に死んでしまいました。やはり他の生物に押しつぶされてしまっていたのが原因のようです。2個体目のメンダコは1週間経過した今でも元気です。搬入直後に記録用に撮影した1個体目、2個体目の写真を比べると、体の傷の量が明らかに違う事が分かります(写真4,5)。

写真 4写真 4写真 5写真 5

元気なメンダコは普段ぺったんこに潰れています(写真 6)。恐らく底泥に擬態するため、起伏をできる限り少なくして目立たないようにしているのだと思います。はじめてご覧になった方は泥なのかメンダコなのか区別がつかない場合もあるようです。

写真 6写真 6

私たちは光に弱いメンダコにできる限り負担をかけないようにするため、水槽に覗き窓を設置、その窓からメンダコが見えるようにしています。こうすることにより、水槽に入る光を少なくしてメンダコへのストレスを少なくしています(写真 7)。

写真 7写真 7

実はメンダコの目の黒い部分を見るとストレスのかかり具合が分かります。丸くなっているとメンダコにとって眩しくないということで、ヤギの目のように細くなっているとメンダコにとって眩しいという事です(写真 8)。また、照明も暗くしていますので、ご覧になる方には見えにくい場合もあるかも知れませんが、ご理解いただけますと幸いです。

写真 8写真 8

そこでおすすめの観察方法は、スマートフォンのカメラを通して水槽の中を見ることです。私のスマートフォンは iPhone13ですが、最近のスマートフォンのカメラはとてもよくできていて、カメラを通してみると明るく見え、肉眼でみるよりもよっぽど見えやすかったりします。

まだ1週間しかたっていませんが、これからは飼育員の腕の見せ所、エサを食べてくれるようにいろいろと試してみる段階に入ってきます。過去にサクラエビを食べている事から、サクラエビはもちろん、ヨコエビなどの小型甲殻類、ミンチなどさまざまなものを試しながら、できる限り長く飼育できるように頑張っていきます!
すでに行列ができるほどみなさまにはご覧いただいていますが、ぜひ見にいらしてください!

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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