2024年03月11日
トリーター:圓山

相模湾の生物目録-I

相模湾は古くから海外の研究者が訪れ、魚類に限らずさまざまな分類群の生き物を調査研究したことでも知られています。

現在、相模湾で報告されたことのある魚類は 1,500種を優に超え、最近でも相模湾初記録種や新種が報告されています。当館の山本トリーターも相模湾で採集できた標本からワタボウシクラゲを新種記載していますね!

新江ノ島水族館は、相模湾の水中景観を模して造られた相模湾大水槽があるほか、生息環境ごとの展示をおこない、相模湾に生息しているさまざまな生き物を紹介しています。
そのため、目の前の海、相模湾の海を知らなければ、何を伝えたいのか、何を展示するのかも決まりません。
そのため、新江ノ島水族館では展示に活用すべく、相模湾の生き物、特にクラゲや魚類などを収集し、時には標本を作製しています。

そこで! 新シリーズとして、相模湾で実際に得られた生き物のちょっと深堀りしたり、図鑑には書いていないことを盛り込んだ紹介をシリーズ化して紹介します。

第一回目に紹介するのは、「ヒメハゼ」です。

ヒメハゼ(相模湾産)ヒメハゼ(相模湾産)

ヒメハゼ Favonigobius gymnauchen (Bleeker 1860)(ハゼ科ヒメハゼ属)
なぜこのシリーズの最初がヒメハゼなのかというと、私が相模湾で初めて採集した魚がこの魚だったからです。以前住んでいた山口県でもよく獲れ、相模湾で再開したときに、ここにもいたのかと懐かしく思ったのを覚えています。
ヒメハゼは、北海道から西表島まで日本全国に分布しており、最大でも全長 10 cm程度にしかならないハゼです。河口域から沿岸域に生息しており、あまり深い水深のところでは見かけません。
砂に潜っていることも多く、一見すると薄い体色の地味なハゼなので、水中写真の被写体になりにくいかも知れませんが、繁殖期には赤い斑点が出てきてとてもきれいです。特に雄は頬が黒っぽくなるのも特徴です。
私がこのヒメハゼに惹かれるのにはもう一つ理由があります。それはこのハゼの繁殖期の行動にあります。多くのハゼ科魚類は、岩や貝殻を産卵基質にし、卵を垂下するように産卵します。このヒメハゼも同様に産卵するのですが、水槽内で飼育していると、その産卵基質を砂で覆い隠す行動します。産卵基質の周囲から砂をかけるので、産卵基質の周りに放射状に溝ができ、その模様はまるで水中のミステリーサークルのようです。同様の行動はミナミヒメハゼ、クロヒメハゼでも報告されていますが、その行動の意味はよく分かっていません。また、まだ記載されていない(名前の付いていない)ヒメハゼの仲間も同様に放射状の模様をつくるようすも観察できました。同所的に生息するハゼも何種類かいますが、それらはこのような行動をしません。ですので、ヒメハゼの仲間(ヒメハゼ属)特有の行動かもしれません。
この行動の意味を解き明かせた際には、みなさまに見ていただけるよう、展示水槽でも再現したいと考えています。少々お待たせすると思いますが、楽しみにしててください!

ヒメハゼ属の一種が作ったミステリーサークルヒメハゼ属の一種が作ったミステリーサークル

もし、相模湾で採れた珍しい魚類や生き物の情報などあれば、ぜひ!新江ノ島水族館にご連絡ください!

※日誌の内容に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

相模湾ゾーン

RSS