2024年09月01日
トリーター:西川

海藻の繁殖にチャレンジ中!

江の島の海に潜ったことがある方がどれほどいらっしゃるでしょうか。
15年前まではアラメやカジメといった海藻がたくさん生えていてまさに海の森のようだったのが、今となってはアラメもカジメも全く見当たらない磯焼けと呼ばれる状態になっています。その原因はウニやメジナなどの海藻食の生物による食害や地球温暖化による水温上昇だといわれていて、一年生(寿命が1年)のワカメは生えてくるのですが、多年生の大型海藻は軒並みやられてしまっているようです。
それならば海の森を取り戻すために何をしたらよいのか。まず魚が食べ尽くせない量の海藻を育てること、そしてその育てた海藻を環境の良い場所に生やすことが私たちが取り組めることの一つだと考えています。今回のトリーター日誌ではその取り組みの一部をご紹介します。

私が力を入れて繁殖しているのはカジメという海藻です。
長い茎の先に黄色っぽい葉をつける海藻で、寿命は最長で7年と言われていますが3年も経つとかなり大きく育ちます。当館では相模湾ゾーン 岩礁水槽で飼育しています。

水槽内でのカジメの繁殖は飼育していれば叶うというものではなく、私たちがかなり手をかける必要があります。カジメは繁殖できる状態になると葉の中央に子嚢斑(しのうはん)と呼ばれるぷくっと膨らんだ部分ができるようになり、この中にカジメの種のようなものが入っています。そのカジメの種のようなものを遊走子(ゆうそうし)と呼びますが、これが肉眼では見えないくらい小さくて、水槽で飼育していたらあっという間に流れていってしまいます。そのため、子嚢斑のあるカジメを見つけたらその部分を切り取ってシャーレの中で遊走子の確認をします。実体顕微鏡を通してもかなり小さい粒にしか見えませんが、くるくると円を描くように絶え間なく動いているので混ざったごみと区別するのは簡単です。

ここから先は配偶体(はいぐうたい)という状態を経ておとなのカジメになります。この過程に到達すればえのすい初となるので、配偶体にすることが個人的には大きな壁の1つだと思っていました。それでも江の島の海のためになんとしても繁殖を成功させたいという想いで取り組み、情報収集や試行錯誤の末、ついに配偶体にすることができました。

ここまでくればおとなのカジメまであと一歩。でも、この一歩が遠いのでしょうね。
新しいことにチャレンジしているときのドキドキ感、ワクワク感がたまりません。
今は配偶体ですが、これが基になって江の島の海に森が戻ったらいいなと考えています。海の森が魚たちの隠れ家になったり産卵場所になったり、またはアワビなどの貝類がそこで健康的に成長することで、私たち人間にもレジャーや漁業の面で利益をもたらすという好循環を作れたらいいなと思っています。海藻とそれを取り巻く環境そして人、その全てに良い影響を与えたいという大層な目標を掲げて、日々小さなカジメの配偶体を観察しています。

相模湾ゾーン

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