鯨類の感染症について

2005年01月
動物園水族館雑誌 46(1) P6〜20
寺沢 文男



[宿題調査報告]
鯨類の感染症について
寺沢 文男

要約
1) 真菌,細菌,リケッチア,ウィルスによる鯨類の感染症について1990年〜2002年の発生を調査し,鯨類を飼育している38園館中34園館から,12鯨種410例(死亡141例,治療262例および治療中7例)の回答を得た.

2) 死亡した10種,治癒した10種共に「呼吸器」の疾患が多く,死亡で52.5%をしめた. 中でも「化膿性肺炎」が最も多かった.

3) 死亡全例の内訳では,細菌61.7%,ウィルス3.5%,真菌2.1%,不明等を含むその他が32.6%であった.細菌の内訳ではStaphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa,Escherichia coli が最も多かった.

4) 死亡全例について,治療前と死亡後の「診断名」を比較したところ,両者には隔たりが認められた.特に呼吸器と敗血症の診断に相違がみられた.

5) 死亡および治療までの日数の比較では,「1週」では,「死亡」が75.0%を占め, 「2週」からは逆転し,「3週」で「治癒」が最も高くなった.その後, 再び「死亡」が増加し,「8−29週」で最も高かった.

6) 死亡までの日数においては, 「消化器」は「1週」と「2週」に集中したが,「呼吸器」では早期の死亡は少なく全期間(1〜30週)を通して認めた.

7) 豚丹毒症は13園館5種37例の報告があった. 敗血症型では血清型2型であった.

8) 「感染症判定時の血液検査項目」は,「白血球増多」,「白血球像異常」, 「赤沈値促進」が多く,その他では,「A/G↓」,「FIB↑」,「ALP↓」,「TP↑」,「γグロブリン↑」が判定に用いられた.

9) 死亡全例はすべて病理解剖された後, 33.1%が「焼却」され, 18.9%が「標本」とされ, 17.7%が「埋葬」された.

10) 飼育動物への感染症予防として,「血液検査」,「体温測定」,「体重測定」,「細菌検査」などが挙げられた.

11) 飼育者および来館者への感染症予防として,「手洗い」(石けん,逆性石けん, アルコールなど),「踏込み槽」(次亜塩素,逆性石けんなど)などを挙げられた.

12) 独自の感染症マニュアルを有する園館は認めなかった.


2003年3月26日受付, 2004年7月6日受理
著作権:社団法人日本動物園水族館協会
2008年12月,動物園水族館雑誌編集委員会より転載許可

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