九州地方西部におけるミドリイガイの最近の動向

2007年03月
第14回 日本付着生物学会研究集会 講演/Sessil Organisms 24(2) P166-167
植田 育男



九州地方西部におけるミドリイガイの最近の動向

植田 育男
新江ノ島水族館

研究の背景・目的 外来種ミドリイガイPerna viridis の四国および九州の沿岸域における動向について、演者は2005年に調査を行い、2006年度の本研究集会にて報告した。それによると四国南西部と九州東部の複数の地点で本種の生息が確認された。とくに九州では大分県佐伯市、宮崎県日向市、宮崎市、日南市、鹿児島県志布志町で本種が見られ、とくに港湾施設とその周辺で見つかる場合が多かった。
そこで2006年は2005年に調査されなかった九州地方の西部で前年と同様に本種の生息に関する調査を行った。

方 法 調査対象地域は、九州地方の佐賀県唐津市から鹿児島県出水市までの東シナ海、有明海、不知火海に面した各沿岸で、調査期間は前年の調査と時期を合わせるため、2006年6月12~14日とした。
調査方法も前年と同様である。すなわち、大潮の干潮時にミドリイガイの着生する可能性の高い港湾や漁港内と周辺の護岸壁、養殖生簀、引き揚げられた漁船の船底など人工物を主に対象として、徒歩で寄り付ける場所を中心に探索した。本種が見つかった場合、生死の別や付着状況を記録し、写真撮影を行った。さらに直接手の届く範囲のものは一部個体を採集し標本とした。

結 果 今調査では17地点で調査を行い、1地点で着生した生貝が見つかった。本種が見つかったのは、長崎県長崎市小瀬戸町の漁港内で、漁船やプレジャーボートを係留する浮き桟橋から垂下した係留ロープに着生したものだった。ミドリイガイはカイメン類、ヒドロ虫類ポリプ、コケムシ類、ムラサキイガイ、シロボヤらとともにロープを芯としてその周りに付着塊を形成しており、その中より本種のみを選別採集すると10個体が得られた。これらの個体の平均殻長は59.3mmで、最小27.7mm、最大78.95mm、だった。採集個体の殻表面を観察すると、成長阻害輪が認められ、1個体当たりの阻害輪の数は殻のサイズとほぼ相関し、殻長27.7-45.5mmの4個体は1輪、62.1-78.95mmの6個体は2輪もしくは3輪それぞれ持っていた。相模湾江の島に生息する本種の生活史に関する情報では、阻害輪は冬季に形成されることが判明しており、今調査で見つかった個体の過去を類推すると、阻害輪を3輪有する個体は、2005年、2004年、2003年の3回の冬季を越し、2003年の夏季から秋季に発見地点に着生した個体であると考えられた。
本調査では、九州地方西部の17地点で調査し、うち長崎市内1箇所の発見にとどまり、この地域での本種の定着が九州地方東部ほどには進んでいないことがわかった。一方私信の情報などでは、本種が長崎県小長井町の有明海沿岸や佐賀県太良町沖の同じく有明海の沖合いで見つかったとの情報もある。今後九州地方西部に本種が広く定着していくのかさらに監視をする必要があるだろう。



Sessil Organisms24(2) P166~P167 掲載
著作権:日本付着生物学会
2012年3月,日本付着生物学会より転載許可

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