長距離フェリーの船底におけるミドリイガイの付着例

2008年04月
第15回 日本付着生物学会研究集会 講演/Sessil Organisms 25(2) P91-92
植田 育男



長距離フェリーの船底におけるミドリイガイの付着例

植田 育男
新江ノ島水族館

研究の背景・目的 外来の付着性二枚貝ミドリイガイ(Perna viridis,以下本種と呼ぶ)は 2000年までに東京,名古屋,大阪の三大都市圏から周辺海域に分布を拡大し,2000年以降四国や九州の海岸で散見されるようになった。2005年の演者による調査の結果,九州地方では,大分県佐伯市,宮崎県日向市,宮崎市,日南市および鹿児島県志布志町より本種を見出し,港湾施設とその周辺での着生を観察した。これらの港の多くは東京湾内や大阪湾内の港と定期的な航路で結ばれており,定期航路に就航する船舶による本種の移動が疑われた。そこで,定期航路に使用される長距離フェリーによる移送の可能性を追跡するために,大阪湾内港と九州沿岸港とを往復する長距離フェリーの船底に本種が着生するかどうかを調査した。

方 法 調査は2隻のフェリーを対象とした。その内フェリーAは瀬戸内海航路で大阪-神戸-松山-大分間を結び,フェリーBは太平洋航路で大阪-宮崎間を結ぶ。調査日は,フェリーAが2007年2月16-17日,フェリーBが2007年7月2-3日だった。長距離フェリーは通常年に1度の頻度でドック入りと呼ばれる船体検査を受ける。そこで,このドック入りに合わせ,ドック内に立ち入り,干出させた船底を目視にて観察し,本種が着生するか確認した。本種が見つかった場合無作為に個体を採集し,研究室に持ち帰り全個体の殻長を10分の1ミリ精度で測定した。また,殻表面を観察し,越冬による成長阻害輪の有無を調べ,年齢の査定を行った。

結 果 フェリーAでは,船底の表面には本種の着生は認められなかった。シーチェスト,プロペラシャフトのロープガード内側など,船の航行時発生する水流を直接受けにくい船底の窪み部位にはムラサキイガイを優占種とした付着塊が形成されていたが,表面を観察する限り本種は認められなかった。ロープガードに着生したムラサキイガイ48個体の1塊を採取し,塊内から本種2個体が得られた。これらの個体の平均殻長は8.7mmだった。フェリーBでは,船底表面に本種は見られず,シーチェスト,ロープガード,外洋航行時に船の姿勢を安定させるスタビライザーの格納部から本種が見つかった。それぞれの部位から採集された個体の平均殻長mm(個体数)は,シーチェスト21.9(1),ロープガード内側37.8(32),シャフト受側24.6(13),スタビライザー格納部22.4(53)で,ロープガード周辺とスタビライザー周辺の採集個体数が多く,特にロープガード内側の個体は大型の傾向があった。今調査で得られた全個体の殻表面には,越冬を示す明瞭な成長阻害輪の形成が認められなかった。
日本の沿岸における本種の生活史,2隻のフェリーの航路や発着港,ドック入りの状況などの情報から,本種の港間移動の可能性について考察した。



Sessil Organisms 25(2) P91-92 掲載
著作権:日本付着生物学会
2012年3月,日本付着生物学会より転載許可

RSS