当館の深海生物展示の要である底曳網全 3回が終了しました。
杉村さんと北嶋さんが採集に行ったのですが、なかなか厳しい海況だったようでした。
天気自体は良かったようなのですが、潮の流れが複雑な動きをしていたらしく網がうまく引けなかったようです。杉村さんの話によると、表層と中深層の潮の向きが反対になっていたそうです。こうなると途中で網が絡まったりしてしまいうまく行かなくなることがあります。今回も、うまく曳網できず一度絡まってしまったそうです。
底曳網の網を引く回数は決められていますので 1チャンスを失うことになりますので、目的のものが採集できていないときなどは気が気でなくなります。大概このような時は狙った生物が採集できない場合が多く、ほとんどメンダコは入らなかったそうです。船上の杉村さんから「このままでは帰れない」と悲痛なメールが届いていました。
そんなメールを見つつこちらは全力を尽くして受け入れ準備をします。今回は光が全く入らなく静かな場所に 90cm水槽を立ち上げています。照明も赤薄暗い赤いライトのみと、まるで写真を現像する暗室のようになっています。
毎年メンダコにチャレンジしていますが、いまだに飼育の糸口が見つかりません。
底曳漁という漁の性質上、採れた生物は数多ある採集のうちで最も厳しい状況で上がってきます。体は傷だらけ、漁獲物は甲板に下され選別されますので一定時間空気にさらされます。運が悪いと他の漁獲物の下敷きになって潰されてしまいます。
ちなみに、大きな水圧に耐えている深海魚ですが体はごく普通の魚です。むしろ柔らかいものが多いのです。深海では体外と体内の圧力を釣り合わせて暮しているため俗にいう“手のひらに何t”などといわれる水圧にも耐えますが(慣れているといった方がいいかもしれませんね。)重力の圧力には無防備です。
そんな状況から飼育に持って行こうというのですからなかなか難しいものがあります。飼育がうまく行かないと真っ先に「採集時のダメージ」が原因に浮かんでしまうため、死因の究明が難しいのが現状です。とにかくその時に思いつく最善の方法を試すしかありません。
今回は水槽の底にヤシガラ活性炭を敷き詰めています。バックヤードでの飼育では掃除や給餌がやり易いように底砂を入れないのですが、メンダコの気持ちになってみると、やはりフカフカした泥みたいな物が欲しいような気がします。
光や振動に敏感なメンダコですので底砂があることによる精神的な安心感は重要であるかもしれません。あとは考えても仕方ないのでやってみるしかありません。
実際に泥を使うと水槽内がドロドロに濁ってしまうのでヤシガラ活性炭を使いました。砂より軽く泥の粒子より重く、時間がたってもギシギシに難くならずフワフワした底を作るには重宝します。おまけに多孔質なため光を反射せず真っ黒な底砂を使い時にはとてもいい素材です。深海の展示水槽でも使っています。
杉村さんと北嶋さんの帰館とともに生物の収容をおこなったのですが、今回はメンダコが 2個体。手のひらより少し大きいサイズと 500円玉サイズのカワイイメンダコです。早速新作水槽に収容しましたが、良い感じです。気のせいか落ち着いているような気がします。
メンダコは驚いたりするとパコパコとクラゲのように泳ぎ回ってしまいますが、今回は底面をホバークラフトの様に滑るように移動していました。あまり見たことのない動きです。可能性を感じずにはいられません。どうにかうまく行ってくれるといいのですが・・・。
その他にも再びセンジュエビが採れています! 先日の日誌で「かなり珍しい!」などと舞い上がってしまいましたが、案外取れるものなのでしょうか?? 何はともあれ調子を整えてデビューさせたいです。
泳ぐ姿が物凄くカッコいいです。ジオン公国軍の宇宙用量産型モビルアーマーのピグロのようです。その長い両腕をボクサーのようにパンチしながらゆっくり優雅に泳ぐ姿はメカニカルで物凄く良いです!
その他にも曳網の失敗により採れた珍しい生物がいますが、それは次の機会に紹介したいと思います。