水質確認もうあしたから 11月です。
気温が上下するのと精神的に疲れているためか、体調は今一つです。
さっそく「塩」と「潮」を間違えてませんか?とご指摘を受けそうですが、大丈夫です。
今回は「塩」に関するお話です。
塩が水中にとけ込んでいる程度を「比重」とか「塩分」として認識し、当館では後者を展示の水質管理のために測定しています。単位は‰とかpsuとか無単位とかいろいろ使われるみたいですが、当館では‰で統一しています。
相模湾ではだいたい 30~ 34‰ですので、海から水を引き上げている当館も同様です。
ただ、大雨が降ると、近隣河川から大量の淡水が混ざりこむため、下がることもあります。一部の生物は低塩分が致命的な場合もあるので、水質測定で塩分低下の兆しがあれば、注水量を減らすなどの対処をします。
塩分について最近考えていることがあります。
一つは魚病との関係です。
病気の原因となる細菌や原虫などは、塩分の変化に弱いものがあります。
例えば白点病の原因となる原虫は、淡水と海水で種類が違います。淡水白点虫は、海水中ではライフサイクルを全うできません。また、ベネデニアという寄生虫は、ホンの 2分間くらい淡水に晒されただけで死んでしまうので、これらの寄生を受けやすい大水槽のカラスエイやオキハギは、定期的につかまえて淡水を張ったバケツに浸けてあげ、寄生虫をさっぱり駆除してあげています。
オキハギ
魚の方はといえば、低塩分でも平気にしている海水魚が意外と多いです。
大雑把な目安として、図鑑などで「川の中に入ってくることがある」と書かれた魚種は、平気な場合が多いです。こう言った魚種は、飼育水の塩分を上下させながら飼うことで、薬を使わずに病気を予防・治療できるのでは、と妄想しています。
一方で「これは河口にもいる魚だし、低塩分でも当然平気だろう」というもので、実はダメなケースもありましたので、慎重に見極める必要がありそうです。
もう一つは自然下での分布拡大についてです。
塩分の違いは、そこに住む生物の分布拡大の壁となっています。
例えばドジョウ。酸欠の水中でも腸呼吸でヘッチャラ、泥の中で何週間も半乾きで過ごせる強い魚ですが、海を通って隣の川へ移り住むことはおそらく無理です。
一方、ある条件下でのみ、一時的に塩分の変化に耐えられるケースもあります。
最近調査して判明したものでは、カラスガイなどの淡水二枚貝[
研究発表:日本産イシガイ類 6種の塩分耐性]。成貝は塩分の上昇に淡水魚以上に弱くて、多くの淡水魚が耐えられる三分の一海水でも生きられません。しかし、その幼生期、魚の組織下に埋没して過ごす時期だけは、海水中でも生きられることが分かりました。そういえば心なしか、貝の幼生の寄生相手って、海でも川でも過ごせるハゼが多いような ・・・。
ハゼの体に乗っかって、海を通って隣の川まで片道旅行、みたいな妄想をしてしまいます。
ところで、みなさまがお家で海の生き物を飼う場合、そんなに厳密に塩分を調整しなくても、実は大丈夫なことが多いです。熱帯性の海水魚をやや低い 28‰程度で飼うことを推奨している飼育書もあります。水換えのたびに塩分が上下することも、濾過の安定の面からきちっと合わせるべきと書かれたものがほとんどですが、実は数‰の範囲内であれば問題ないことが多いです。それよりは、水が濁ってしまう前に(多くはアンモニアの毒水になっています)、薄めの海水ででもちゃんと水換えしながら飼ってあげた方が、状態よく飼える種が多いと思います。アゴハゼあたりはずーっと汽水で飼っていても元気です。
塩分についての上の記述は、厳密にはニュアンスが異なる部分もありますが、大雑把なお話として、専門家のみなさまはお受けとめください。
もしかしたら、水族館でも「川の生き物」として展示しているものが、実は海水飼育でした!みたいなことがある、かも、です。想像しながらお楽しみください。