ここのところ、いくつかの生き物の繁殖がうまくいきつつあります。
“えのすい”生まれ、“えのすい”育ちのこどもたち 2種を紹介します。
コウイカ(相模湾ゾーン 相模湾キッズ水槽)
コウイカは春に卵を産むとしばらくして死んでしまう一年しか生きない生き物です。毎年冬になると卵が手に入り、子どもは毎年のように生まれるのですが、これまで育てるのに苦難していました。
おしり(?)に向かって泳ぐので、すれて傷ついてしまうことを心配して水槽の工夫をしたりしたこともありましたが、一番のポイントは餌だったようです。というのも、小さいうちは生きた餌しか食べてくれないのです。しかも、成長期ですから毎日満腹になれるようにたくさんあげる必要があります。子どもたちのサイズに合った生きたエビやアミなどの餌を毎日あげるというのはなかなか難しいものです。
しかし、飼育のお手伝いをしてくれているアルバイトさんが餌を毎日海から獲ってきてくれたのです! 海にはいろいろなサイズの餌に最適なエビなどがいます。彼らの愛情ですくすくと育ち、もうなんでも食べてくれるまで大きくなりました。まだまだかわいらしいサイズですので、キッズ水槽にて展示しました。
また、同じくアルバイトさんのおかげで育ったかわいい子どもたちがあしたよりキッズ水槽にデビューします。お楽しみに。
タギリカクレエビ(深海Ⅰ)
世界で初めて繁殖に成功した深海の「たぎり」に暮らしているエビです。「たぎり」とは、鹿児島湾の海底からじわじわとメタンガスがわき出ている地点のことで、そこでは微生物の働きで硫化水素などのいわゆる毒ガスも発生しています。
ここにはサツマハオリムシという化学合成生態系(※)の生き物がいて、このサツマハオリムシのいるところで発見されたエビがタギリカクレエビなのです。化学合成生態系の生き物を飼育している施設は世界でも指折りしかありません。しかも、そのなかでも長期飼育や繁殖をしているところはごくわずか。わたしたちは新江ノ島水族館になったときからこの化学合成生態系生物の飼育にチャレンジしていて、繁殖は大きな目標のひとつでした。ですから、この成功は本当に嬉しかったです。
展示している繁殖個体は 1匹ですが、もうだいぶ大きくなり親個体と同じくらいのサイズまで育っています。また、バックヤードでは次の子どもたちがすくすく育っていて、この子たちも今年中にはお目見えできるかもしれません。
また、深海Ⅰでは累代繁殖を続けているホネクイハナムシ(オセダックスとかゾンビワームとも呼びます)も紹介していますので、私たちの飼育研究成果をご覧ください。
繁殖がうまくいくようになってきた背景には、シラスの繁殖展示を始めたことが大きいです。シラスのために用意している高栄養の餌は、他の生き物たちを育てるのにも適しています。また、アルバイトさんたちが入ってきてくれてお手伝いしてくれていることもあり、トリーターが子育てなどに力を割く時間が少し増えているのではないかな、ともおもいます。繁殖技術は水族館がもつ役割のために大変重要なことだと考えます。これからもがんばります。
全然関係ない話ですが、大水槽のシイラを見ていてウエットスーツカラーだということに気付き、ちょっと嬉しくなりました。
(※)メタンや硫化水素などの化学物質を利用して生きるエネルギーをつくりだす生き物から始まる生態系のこと。ちなみに、わたしたちは光合成をする植物から始まる光合成生態系の生き物です。