2021年05月31日
トリーター:山本

江の島産の新種「ワタボウシクラゲ」その1

このたび、私は高知県にある黒潮生物研究所の戸篠博士とともに、江の島で採集したとあるクラゲを新種として記載し、学名(世界共通の呼び名)と和名(日本での呼び名)を付けました。その名も「Tiaricodon orientalis」、和名は「ワタボウシクラゲ」。和名の由来は結婚式のときに使われるあの「綿帽子」からです。かわいいでしょ。
さらっと言いましたが、“えのすい”から新種の発表をするのは、なんと開館以来初! 頑張ってよかった! こんな世の中ですが、明るいニュースになればいいなー。
ということで、このワタボウシクラゲについてふんわり紹介していきたいと思います。では早速その姿を見ていきましょう。



いかがでしょうか。丸い。クラゲの中ではかわいい系ですかね。傘は透き通っており、水との境目は自然のものとは思えない滑らかな曲線を描きます。1枚目は標本の写真、2枚目は生きている時の写真です。
これ、気付いた方がいればとっても嬉しいことなのですが・・・ 実はこのクラゲは過去に私が書いた日誌で登場しています(2018/05/03 江の島の謎クラゲ?)。私が“えのすい”に来て初めて書いた日誌ですね・・・ 懐かしい。

このクラゲの正体は、簡単に言うと既に知られている「Tiaricodon(属名)」に属する新種のクラゲでした。このクラゲを発見してから、いろいろあって(←どこかでお話しできたらいいですね)3年もかかってしまいましたが・・・ ようやく論文が完成してほっとしています。そのうちオンライン公開もされると思うので、気になる方、ぜひぜひ原文を読んでいただければと思います。

このクラゲの特徴は、丸っこい傘と4本の触手、真ん中あたりにある赤い部分などなど・・・。和名を考える際、私にはなんとなく「綿帽子」に見えました。また、江の島には「恋人の丘」や「龍恋の鐘」など、「恋」にまつわるスポットがいくつかあり、そのイメージにも関連付けた名前を選びました。「もうすぐ6月だし、June brideにちなんでBridal jelly(fish)なんていいんじゃない?」と、クラゲチームのAトリーターが言っておりました。さすが、うまい・・・!
とりあえず、「綿帽子水母」は日本らしい名前で結構気に入っています。種小名の「orientalis」は、ラテン語で「東洋の」という意味で、本種が日本や中国で出現することからこの名前を付けました。

江の島での出現時期は3~5月頃、水温が大体15℃前後になると、って感じですね。2018年から2020年までに30個体以上。今年はなんの偶然か、たくさんのワタボウシクラゲが採集できており、おかげで今日の発表と共に生体を展示できています・・・!
毎年そこそこ出現していることから、このクラゲ自体はそこまで珍しくないのかもしれません。

飼育は意外と簡単で、他のクラゲと同様にアルテミアをたくさん食べて成長します。現在採集してから2か月近く経っており、結構長生きするみたいです。でもちょっと寿命が近いかも・・・ なるべく長く展示できるように頑張ります。


こんな感じで、とても分かりやすく光に集まります。だからいっぱいいても換水が楽! 水温を15℃~20℃に保つことができるなら、ご家庭にある瓶や大きめのコップなんかでも飼えるのではないでしょうか。もし海で見つけた時はじっくり観察してみてください。

本日5月31日より、今年の4月に江の島で採集したものをクラゲサイエンスで展示しています。なんと、このクラゲのためにサイエンスの顕微鏡コーナーをちょっぴりリニューアルし、期間限定で紹介しています。こんな感じです。


ポリプが採れていない以上、今年生きている姿を見ることができるのは今のシーズンだけかと思います。丸っこいかわいい姿をぜひご覧ください。“あわたん”と一緒に分かりやすく学べるスライドも必見です。そして、ワタボウシクラゲをきっかけに、私の大好きな「ヒドロ虫類」の魅力を知っていただけたら嬉しいです!

次回はちょっと踏み込んで、ワタボウシクラゲの「分類」についてのお話をしようと思います。私が大好きなテーマです・・・! 多分、とってもマニアックな細かい話になると思いますが、頑張って砕きます。お楽しみに・・・!

[2021/06/15 江の島産の新種「ワタボウシクラゲ」その2]
[えのすい公式キャラクター「あわたん」デビュー!]

クラゲサイエンス

RSS