2022年09月28日
トリーター:石川

ペンギンの絆

当館で飼育しているフンボルトペンギンは、雌雄の絆が強いといわれています。
巣を作る場所は決まっていて、羽がわりのとき以外周年繁殖できるためか、子育てを重ねるごとにその結びつきは強くなっていくように思います。

ちなみに極地に生息するペンギンたちでは繁殖時期が決まっていて、子育て期間も長かったりすることで、必ずしも毎年同じ相手と一緒になるわけではないようです。
フンボルトペンギンも若いうちは気が合わなかったり、子育てを続けて失敗してしまうなどリスクが多くなると、一度は番(つがい)となっても、その後別の個体と番となる場合も少なくなくないようです。
ここまでは雌雄の番の関係をお話ししましたが、“えのすい”では雌と雌のペアがいて、この関係についても雌雄と変わらず深い絆が生まれるようなのです。

当館で雌と雌のペアは「ルビー」と「サニー」、「ハク」と「セサミ」、「ウタ」と「キク」、「ヒカル」と「アカリ」、そして「チッチ」と「マリー」です。前の 4ペアは、それぞれみなさんが普段ご覧いただけるところにそれぞれ 2羽でいることが多いので、ぜひ探してみてください。

ですが、最後の「チッチ」と「マリー」が一緒にいるところはなかなかご覧いただけません。

左:「マリー」 右:「チッチ」左:「マリー」 右:「チッチ」

実は、「チッチ」は 2019年の冬頃から歩けなくなってしまいました。
それからは私たちが出入りする扉の前を仕切って、朝の遊泳後はそこで生活してもらっているのです。
「チッチ」と「マリー」は以前から一緒にいるのですが、彼女たちの縄張りを主張したり、一緒にいて相手の羽繕いをしてあげたりする、いたって普通に仲が良いところしか見ていませんでした。

それは「チッチ」が歩けなくなる 1か月前のこと、気の強い「マリー」が縄張り争いで雄ペンギンと闘争し、翼から大出血してしまったことがありました。
ちょうど羽の付け根の内側に血管の太いところがあって、そこを噛みつかれてしまったようなのです。
出血量が多く、隔離治療となりましたが、ペンギンたちは普段の生活環境や一日の生活サイクル、そして何よりいつも一緒にいる相方と居られなくなることで深く落ち込んでしまうことがあります。
一度メンタルをやられてしまうと怪我や病気が快方にむかっていても、命を落としてしまうこともあります。

ここは「チッチ」が頑張りました。隔離された「マリー」と一緒にいてメンタルケアをしてくれたのです。
「チッチ」のおかげで「マリー」がすっかり治ったあと、しばらくして今度は「チッチ」が歩けなくなってしまいました。

もともと生まれて初めて、巣から出た際にすでに脚部の骨折があったようで、体は激しく斜めに曲がってしまっていました。
ギブスのようなサポーターを毎日取り付けて身体がこれ以上曲がらないようにと矯正し、子どもの頃はだいぶ苦労したペンギンでした。
身体が斜めで歩行するためカニのような歩き方になってしまいましたが、他個体と変わりない生活が送れる状態ではありました。
特にそれ以外は大病もせず、10年、20年と歳をとっていきました。
長く生きているペンギンでは 20年を過ぎたあたりで、股関節周辺の筋力が衰えてくる傾向がみられていました。卵を産んだ後や羽換わりの後、の体力がないときに特に顕著にみられました。
「チッチ」は歩けなくなる 2年くらい前から、卵を産んだ後や羽がわりの後に前傾姿勢が増してくる兆候もあり、心配はしていたのですが、とうとう歩けなくなってしまいました。
本人は動けるので這ってでも普通の行動パターンをとろうとしていましたが、お腹を擦ってしまったり、翼の先を怪我したりと別な要因でダメージを負ってしまうため、仕方なく陸上にいる際は隔離することにしました。
この際お腹に負担がかからないように、ハニカムマットの上で寝てもらい、お腹の羽が擦れにくいように、トリーター作成の特注の服を着ています。

ペンギンに限らず鳥類の群れでは、こういった普通ではない行動を見ると、他のペンギンたちがその個体をいじめにかかることがあります。
他から襲われたり目立たないようにするために、同じ動きをしないものを排除することは本能なのかもしれません。
厳しい世界です。

しかしそんないじめられている状況を見つけるやいなや駆けつけるのが「マリー」でした。
他個体を追い払ったり、他個体との間に入り込んで「チッチ」をいじめられないようにするのです。
「チッチ」は今でも朝いちばんで他のペンギンたちと一緒に泳いでいます。
もう 3年が過ぎていますが、私たちも「マリー」にならって毎日「チッチ」が泳いでいる間は、必ず誰かが見守ることにしています。
羽がわりのときでは数十分で上がってくることもありますが、いつもは 1時間半から 2時間、最長では 7時間以上も泳いでいることがあります。
歩けない「チッチ」の運動もかねていますから、泳ぎたいだけ泳がせています。ときどき、他のペンギンに追いかけられたりしますが、泳ぎはまだまだ達者で、潜水したり、かわしたりすることもできます。
夜は私たちも付き添えないので、就寝時は「チッチ」と「マリー」のエリアへ他のペンギンが入れないようにしています。
「チッチ」は状況を把握しているようで、この環境をすぐに理解してくれたようでした。しかし普通に動ける「マリー」は泳ぎたい時にプールへ行くことはできず、夜のプライベートはなくなってしまいます。
この環境を理解してくれるか少し心配しましたが、「マリー」もすぐに理解してくれたようで、今では 一日の最後に掃除をするのですが、終わるか終わらないうちに「マリー」が閉め切ってしまう場所の前で待っていることが多く、別の所にいても呼ぶと必ず自らそのエリアへ入っていって、夜間は「チッチ」と過ごすのです。
夜は介護しながら?「チッチ」を守ってくれているようです。
夜 2羽で寝ているときに、普通は立っている状態でおこなう行動で相互羽繕い(はづくろい)というのがあります。
互いに相手の羽を羽繕いしてあげる行動なのですが、寝た状態というかなり無理な体勢で 2羽がおこなっている姿はなんともほほえましいのです。
一般には雌雄の番か、子育て中の親子で見られる行動です。
この 2羽を見ていると、我々以上に深い絆で結びついている生き物なのだなということを実感します。
「チッチ」は毎朝 9時~ 10時くらいまで泳いでいます。朝早くいらした際には、ぜひ元気に泳ぐ「チッチ」にも会っていってください。

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