相模湾生息魚種に対するホンソメワケベラの掃除行動の水槽内観察

2007年09月
第52回 日本動物園水族館協会 水族館技術者研究会
伊藤 寿茂 ・ 櫻井 徹 ・ 小谷野 有加 ・ 奥山 陽子 ・ 唐亀 正直 ・ 崎山 直夫 ・ 神応 義夫



相模湾生息魚種に対するホンソメワケベラの
掃除行動の水槽内観察

伊藤 寿茂, 櫻井 徹, 小谷野 有加, 奥山 陽子, 唐亀 正直, 崎山 直夫, 神応 義夫
新江ノ島水族館

 ホンソメワケベラLabroides dimidiatus は他の魚の体をつついて寄生虫を捕食する習性を持つ.他の魚は本種を共生相手として認識し,攻撃を加えずその行動を受け入れる.その行動については多くの事例がしられるが,本種の分布北限周辺の相模湾に生息する魚種についての知見は稀有と思われたので,潜水観察と職員へのアンケートを行い,本種と相模湾生息魚種の共生関係を調査した.
 調査は相模湾大水槽(水量約1000m3)に導入されたホンソメワケベラを対象とした.当水槽の飼育魚種は全て相模湾での採集記録がある種であり,一時的に収容されたものを合わせると100種以上になる.潜水調査は2005年1月29日から8月20日の期間に計75回実施した.水槽内を一定のルートで進み,本種の定位場所,掃除行動の有無,対象魚種,行動パターンを記録した.アンケートは水槽に携わる職員12名を対象とし,作業中に見られた本種の行動を記録してもらった.
 潜水調査の結果,ホンソメワケベラについて全381例の観察がなされ,その内256例は他魚種と接触中であった.本種は擬岩周辺の定位置に1−2個体でいることが多かった.掃除行動は,大型で定位置の強いクエ(55回)やタカノハダイ(48回)に対してが多かったが,小型種であるオヤビッチャ(22回)やカゴカキダイ(11回),遊泳性の種であるカンパチ(5回),水槽内の個体数が少ないニセカンランハギ(5回)などに対しても見られた.魚種によっては,鱗の動きを止めたり,鰓蓋や口を大きく開くなどして積極的に掃除を受け入れる行動を示した.一方で,軟骨魚類や一部の硬骨魚類(カサゴ類やイワシ類など)に対しては,ほとんど掃除行動が見られなかった.本種の掃除行動は,各魚種との遭遇しやすさ,水槽内の収容個体数,定位場所の一致といった条件に必ずしも合致していなかったが,温帯域に出現する魚種に対しても広く行われることが確かめられた.


2008年5月 動物園水族館雑誌 49(2) P54-55. 掲載
著作権:社団法人日本動物園水族館協会
2008年12月,動物園水族館雑誌編集委員会より転載許可

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