しばらくフグの話をしていませんでしたが、その間に、“えのすい”ではフグの仲間が充実してきました!
今回は、先日「太平洋」に展示したシマキンチャクフグについて紹介しましょう。
シマキンチャクフグは、横から見るとフグっぽく見えないかもしれません。正面から見ると、平べったく、ひし形に見えますが、れっきとしたフグ科魚類です。
口が小さい、腹鰭がないなどフグ科魚類の特徴が見られます。
このシマキンチャクフグ、フグというだけあり、みなさんの想像通り毒を持っています。
よく水族館で擬態の解説をするときに出てくる魚で、同じフグ目 カワハギ科 ノコギリハギは、このシマキンチャクフグに擬態しています。
標本の画像で比較すると分かりやすいですね。
よく似ていますが、分かりやすい違いは、背鰭と臀鰭の形の違いでしょうか。
しかし、このシマキンチャクフグ、有毒であることは知られていましたが、どんな毒があるのかは、2020年まで知られていませんでした。
フグの毒って一つしかないのでは、と思われる方も多いかもしれませんね。よくフグ毒として聞くのはテトロドトキシンです。この名称は、フグ科魚類の名称である Tetraodontidae に因み、Tetrodotoxin (テトロドトキシン)と命名されています。
しかし、フグが持っているのはテトロドトキシンとは限りません。
例えば、モヨウフグの仲間(モヨウフグ属)の多くはテトロドトキシンも持っていますが、それ以外にも麻痺性貝毒を持っており、ハコフグ、ハマフグ、ウミスズメなどのハコフグの仲間は、パリトキシンという毒を持っています。
では、シマキンチャクフグの毒はどうかというと、テトロドトキシンと麻痺性貝毒の代表的な成分であるサキシトキシン Saxitoxin を持っていることが分かっています。
なぜシマキンチャクフグの毒の成分分析が最近まで行われてこなかったかといえば、おそらく食用にならない小型の魚だからでしょう。
実際、このシマキンチャクフグの毒の分析をするきっかけになったのは、私が水族館でシマキンチャクフグの毒の解説を作っているときに、毒の情報がわずかしかないことがわかったからです。よく解説される魚のわりに、何の毒を持っているのかもわかっていなかったということですね。
“えのすい”にいる生き物について、日頃からみなさんに伝えたいと思い、日々調べ、研究していますが、私たちトリーターもまだまだ分からないことだらけです。
ただ、私はそこに魅力も感じてしまいます。奥が深い生き物たちだからこそ、興味が尽きません。
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シマキンチャクフグの毒の論文
論文タイトル:Co-Occurrence of Tetrodotoxin and Saxitoxins and Their Intra-Body Distribution in the Pufferfish Canthigaster valentini
著者:Hongchen Zhu, Takayuki Sonoyama, Misako Yamada, Wei Gao, Ryohei Tatsuno, Tomohiro Takatani and Osamu Arakawa
掲載雑誌:Toxins 2020, 12(7), 436; https://doi.org/10.3390/toxins12070436