2015年02月14日

湯河原 キンメダイ乗船採集キンメダイ採集日誌/岩崎

  • 期間:2015年02月10日(火)
  • 場所:神奈川県 湯河原
  • 目的:乗船採集展示
  • 担当:神応・戸倉・岩崎


2015年2月10日(火)、日本列島を襲ったこの冬最強の寒波は、日本海側の山沿いに記録的な大雪を降らせ、太平洋側には冷たく乾いた強風を吹き込んだ。
まだ夜が明けない午前5時、3名のえのすいトリーターを乗せた船は湯河原福浦港から初島沖に向けて出港した。
乗り込んだのは岩崎とベテラン釣り師の神応トリーター、そして船釣りが得意な戸倉トリーター。 目的は魅惑の深海魚“キンメダイ”の採集だ。

採集に協力していただいたのは釣り船「天恵丸」さん。 季節によってさまざまな魚種を扱っている仕立て専門船である。
毎週チェックしている新聞の釣り情報で気になっていた船だ。いつか乗ってみたいと思っていた。キンメダイ展示計画が持ち上がった昨年末、採集への協力を打診したところ快諾していただいた。


「だいじょうぶだと思いますけど釣り場まで行けなかったら引き返します」
船は大荒れの海上を慎重に進む。
大波を乗り越えるたびに大きく揺れ、水しぶきが降りかかる。
夜明け前の海は寒い。
あっという間に手足の先が痛くなってきた。
港から1時間ほど船を走らせて、なんとか目的地まで到着することができた。


「仕掛けを下す準備ができたら教えてください」
勝手に下してしまうと潮と船の動きで同乗者の仕掛け同士がからんでしまうのだ。
投入のタイミングは船長さんが判断する。

「いいですよ、おろしてください水深は 250m前後です」
電動リールのストッパーを緩め、仕掛けを水底に向けて下す。
キンメダイ釣りに使ったのは、ムツ用の7本針の下に大きな錘を付けて水底まで一気に下す胴付仕掛け。
餌は塩サバの切り身だ。
ムツ針は歯の鋭い魚用の特殊な針で、歯で糸を切られにくくするため、魚が針を飲み込まず口先に掛かりやすい仕組みになっている。
別名“ネムリ針”とも呼ばれている。
飲み込ませてしまうと釣った魚を生かせる確率が低くなてしまうので、釣り採集にはもってこいの針だ。
仕掛けが長いので絡みついてしまうとやっかいだ。
ムツ針一本一本に餌を付けて船べりに設置されている磁石に付ける。
餌をすべて付け終えたら錘から順番に針を磁石から外して下す。
水底まで着いたら 3mほど仕掛けを上げてキンメダイの当りを待つ。
キンメダイの群れは水底が坂になっている“駆け上がり”に多い。
船は風と潮に流されるため水深はどんどん変わっていく。
まめな水深合わせ“棚どり”は欠かせない。


強風で指先は凍え、磁石に付けた針は餌の抵抗で吹き飛ばされる。
時々当たる大波で船は大きく揺れる。
仕掛けを下した水深や魚の当りが分かりにくい。
「きょうはギリギリですね」
「これ以上風が吹いたらできません」
キンメダイ釣り初心者の 3人にはかなり過酷な条件。
1時間が経過した。
なかなか当たりが来ない。このまま全員“ぼうず”か?
嫌な予感が漂う。焦りが胸を締め付ける。

なんとしても釣って帰らなければならない理由があった。
“背水の陣”
前の晩に試験飼育していたキンメダイ 2尾を入れて、すでにキンメダイ水槽は仮スタートさせていたのだ。
「風よ静まりたまえ!」
願いはむなしく風に飛ばされて荒れた海へと消えた。

その時。
「岩崎さん、当ってますよ!」
竿先がガツガツと下に振られる。
「うおっ!」
これがキンメダイの当りか。
うわさ通りはっきりしている。

「人が歩くくらいのスピードでゆっくり上げてください」
早く巻きすぎると弱いキンメダイの口が切れて外れてしまうのだ。
浮き袋が発達していないキンメダイでも急浮上はダメージを与えてしまう。
この状況ではごく限られたチャンスだ。慎重に巻き上げる。
深いのでなかなか上がって来ない。
あと数m。
見えた!
金色に光る大きな眼、赤い背中。
やった! キンメダイだ。しっかりと口に掛かっている。
体に触れないように針を外して船の生簀へ収容する。
泳いだ!
「ふう~」
ようやく胸をなで下ろすことができた。

続いて神応トリーターにもヒット。
戸倉トリーターはダブルだ。
船釣りが得意な戸倉トリーターは、当りが無い中でも地道に餌を取り替えて、キンメダイが居そうなポイントを探っていたのだ。
そんなまめさが奏功してこの日竿頭の 4尾を釣り上げた。
渋い状況でこそ攻めの姿勢が大切であることを学んだ。
さすがだ。



キンメダイは明るくなると活性が落ちる。
風と波に加えて寒さも限界だ。
午前10時30分頃に納竿。
福浦港に向かう。
風がさらに強くなってきた。
幾つもの浪を乗り越えて無事に帰港することができた。
生簀の蓋を開ける。
元気に泳ぐ赤い魚体が見えた。
網を使ってしまうと体が傷ついて病気になってしまう。
慎重に海水ごとすくってトラックえのすい号へ積み込み込む。
キンメダイは光に弱いので遮光シートで収容タンクを覆う。


「ありがとうございました!」
天恵丸さんにお礼を伝えて福浦港を後にした。
さあ、えのすいに向けて出発だ。
真鶴道路と西湘バイパスを通り午後1時30分頃帰館。
素早く魚を水槽に運び込む。
キンメダイたちが水槽の中を泳ぎ始めた。
えのすい初展示。
キンメダイの展示はこうしてスタートさせることができた。


「うわぁー、キンメダイだよ!」
「高級魚なんだよね!」
「いいなぁ、おいしそう!」
反響は上々だ。

おさかなマイスターとして、やはり自分で食べてみなければ語れない。
残念ながら釣り上げたダメージで弱ってしまったキンメダイを食べてみた。
まずは定番の煮つけ。
濃厚な脂の味は独特だ。口の中で脂の旨みがなかなか抜けない。やはりうまい!
もう一尾は塩焼きにしてみた。
余分な脂が落ちてさっぱりとした味になった。これもいける! 魚の脂が苦手な方にはおすすめだ。

おさかなマイスターとして一言・・・
キンメダイに限らず旬の魚はおいしいので、ぜひ冬の魚を味わってください。

えのすいトリーターとして一言・・・
前もって確保していただいていた分と今回がんばって釣り上げた分を合わせて、予告通りキンメダイ展示をスタートさることができました。ぜひ見に来てください。
課題は山積みですが安定して飼育できるようにがんばります!

そして最後に・・・
多大なご協力いただきました 天恵丸 さん、ありがとうございました!

太平洋

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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