2019年05月06日

相模川カニ類調査(4)渋滞横目にゴクラク調査

  • 期間:2019年5月6日(振・月)
  • 場所:相模川
  • 目的:半水棲カニ類の生息状況の把握
  • 担当:伊藤


みなさま こんにちは。
きょうで10連休も最後ですね。
当館にも大勢のお客さまがお越しくださいました。ありがとうございます。
そんな繁忙なさ中、私はまったりと(しかし真面目に)相模川の河口に調査に出かけていました。
現地から斜め上を眺めると、川にかかる橋に車がぎっちり並んでいます。
まぁ大変そう・・・。
そこから300mと離れていない私のまわりは、家族連れが楽しむような場所ではないためか、ほとんど人影なし!低い人口密度のなか、孤独を楽しみました。

同シリーズ日誌を書くのは久々ですが、相模川へは暖かいシーズンには 月数回のペースで訪れていまして、ちょっとした報告[研究発表:2018年8月 相模湾の汽水域で確認されたカニ類 -特に北限産出となる希少種の記録について-]もまとめることがかないました。
今回は、前回までの採集日誌において、論文投稿中のために紹介を控えていた種についても、触れたいと思います。
まずは・・・

ヒメヒライソモドキ
一昨年の時点で見つけており、昨年夏に論文に記すことができた希少種です。
今のところ、ここ相模川での報告(つまり私の採集例)が本種の分布北限記録なのです。
オスのハサミの外側だけにフサフサの毛が生えており、眼が比較的大きいという特徴があります。
水底の砂をすくい取り、ネットの上で洗いながら探したところ、大小さまざまなサイズが見つかりました(ということは、越冬に成功しているのでしょう)。
同所にたくさんいるケフサイソガニ類とはもはや、動きや形の「なんだか違和感」で迷わず見分けることができます。
オスであれば水に入れて、毛の生え方をチェックすることで本種と確信できます。
とっても小さいカニですが、ぞくぞく来るカッコよさ!
何とか展示しお見せできないかなと思っています。


ヒメヒライソモドキ。どこにいるか分かりますか?


ヒメヒライソモドキ。ハサミの毛がフサフサ。

他にもちょっと珍しい生物が見られたので紹介します。

トゲアシヒライソガニモドキ
こちらは昨年まで相模湾キッズ水槽で展示していました。
ハサミだけではなく、足(歩脚)の方に長い毛がたくさん生えています。
他のカニと全然違いますよね?
これもかっこいいです。
相模川のもうちょっと上の方でも採集されており、そちらが北限記録になっています。


すね毛フサフサ。トゲアシヒライソガニモドキ。

チチュウカイミドリガニの幼体
だと思われます。
本種自体は江の島でもたまに見つかり、見たことがあるのですが、幼体はなんだか毛深くて、雰囲気が違います(ほんとにチミドリかなぁ?)。
外来種ですが、相模湾では爆発的に殖えていない印象です。


チミドリ?ちょっと自信ないので調べ中。

アサリとホトトギスガイ
おなじみのアサリですが、近年の相模川ではレアだといえます。
ホトトギスガイはいわゆるムール貝の仲間で、貝殻が薄いので、力のあまり強くない小型カニ類の獲物として重要だと言われています。
これらの生息数が相模川で殖えていけば、それを食べるカニや鳥も増えて、40年以上前のにぎやかな干潟に戻るかも知れません。


アサリ(左)とホトトギスガイ(右)


ここからは魚です。

ゴクラクハゼ
この時期は河口で幼魚が多く見られます。
泥にまみれているとマハゼやアシシロハゼと間違えがちですが、何となく体が硬くてシャキッとしており、体にブルーがきらめくので本種と分かります。
水面下の浅瀬は、まさに極楽の楽園といったところでしょうか(日誌のタイトルもこちらから)。
当館では「川魚のジャンプ水槽」に成魚がいます(真ん中あたりの丸い石がごろごろしているあたりにいることが多いです)。


河口のイメージがあまりないゴクラクハゼ。

チワラスボの仲間
赤黒く細長い体と、退化気味な小さな眼が特徴の珍魚です。
相模川では 1998年に地元の小学生によって採集され、平塚市博物館の故浜口哲一さまにより初記録されています。
潜る性質が強いので、展示難易度は高そうです。
当館の「海岸水槽 干潟(江奈湾 三浦市)」に入れておけば、人知れずひっそりと育つかも知れません。


ハゼとは思えない異形のチワラスボの仲間

ヒナハゼ
これも相模川ではレアですが、沖縄に行った時には、小さな水路でそれこそ「湧くように」採集されたのを覚えています。
寸詰まりで小鳥のような雰囲気が素敵ですが、酸欠や擦れには弱く、カニや他の魚と一緒にキープしているとすぐにフラフラになってしまいます。
本種だけで大事に持ち帰り、展示飼育したいところです。


ヒナハゼ

カワアナゴの仲間の幼魚
日本にはよく似た 4種のカワアナゴ属が生息しており、カワアナゴ以外は亜熱帯地方に多く見られるのですが、相模湾からはこれら 4種とも記録があるので、よく調べないと種が確定できません。
頬っぺたのすじを数えたりするので、生きたままだと結構難しいです。
当館では、巨大なカワアナゴの成魚を「皇室ご一家の生物学ご研究」で展示しています。


カワアナゴ属幼魚。
尾びれの感じからオカメハゼではなさそう。

ハゼといえば、当館でも展示紹介させていただいている上皇陛下のご専門分野です。
今回採集されたカワアナゴ属やヒナハゼ属の中に複数の種が含まれていたり、よく似た種類と混同されていたことにいち早く気が付かれ、論文にしてご報告されていることは驚くべきことです。
現場で生の魚を見ていると特にそう感じます。
最後は魚の話題が主になってしまいましたが、今後も継続して相模川を見ていけたらと思っております。

バックナンバー
2017/07/12 相模川カニ類調査(1) 最近の相模川カニ類の生息状況
2017/08/19 相模川カニ類調査(2) あの希少種はいま
2017/08/19 相模川カニ類調査(3) 相模川に新顔登場か?

浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

触ってもいいの?

どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

“えのすい”はなにをするの?

打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

水族館で救護することはあるの?

どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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