2022年03月31日

2021年 ウミガメ類のフィールド調査報告

    相模湾は、4種類のウミガメ類が回遊してくることが知られ、アカウミガメの産卵行動が観察される地域にあたります。
    “えのすい”では、相模湾沿岸における野生動物の生息状況を知るために実施しているフィールド調査の一環として、ウミガメ類の海岸漂着(ストランディング)状況と、上陸産卵状況を調査しています。
    相模湾沿岸では、毎年のようにアカウミガメの上陸や産卵行動が観察され、また、年間数 10頭のウミガメ類がストランディングしています。
    ストランディングの現場では、種と雌雄の判別、タグの確認(タグを付けて放流される場合があるため)、標準直甲長(背甲の首周りのくぼみから臀甲板先端)、標準直甲幅(甲羅の一番幅の広い場所)を測定します。現場での病理解剖や死亡個体の回収は、細菌等を水族館へ持ち込まないために実施しておりません。


    2021年度ストランディング記録


    2021年度ストランディングポイント

    今年度、当館に連絡があったストランディング件数は 22件でした。その内、現場に調査出動した件数が 16件で、ストランディング個体を確認できたのがその内 14件、出動したがストランディング個体の確認できなかったのが 2件でした。
    ここ数年に比べて、ストランディングの連絡件数が多く、ピークだった 5月中旬から 6月中旬にかけては、1日数件の連絡が寄せられた日もありました。

    ストランディングしたウミガメ類の種別では、アカウミガメ 6件、アオウミガメ 7件、タイマイ 1件、連絡が寄せられたのは、2021年 4月 5日~2021年 12月 28日までの 9か月間で、最も多かったのは、6月の 10件でした。
    ストランディングが 7件と最も多く確認されたのはアオウミガメで、例年よりやや早い 4月上旬からストランディングが確認され、ほとんどが標準直甲長 50cm未満の比較的若いと思われる個体でした。
    次いでストランディング件数が 6件確認されたアカウミガメでは、産卵シーズンにあたる 6月~7月にストランディングが集中していました。標準直甲長 70cm以上の亜成体から成体サイズと思われる個体がほとんどでした。

    例年、ストランディングの発生は、ウミガメ類の回遊シーズンにあたる 10月頃までがほとんどですが、今年は 12月末にタイマイのストランディングが確認されました。本個体は、標準直甲長が 38.3cmの若い個体でした。
    タイマイは本州でも観察されますが、主に奄美諸島以南の珊瑚礁が発達している海域に生息している種類で、標準直甲長が 40cmほどになると沿岸の浅い場所で生活を始めます。死後それほど時間が経過していない状態であったことから、本個体は季節来遊的に相模湾に迷入し、低水温への耐性がないために 12月に死亡漂着をした可能性が考えられます。

    今年度は、アカウミガメの上陸情報が 1件あり、現場調査を実施しましたが、産卵は確認できませんでした。
    その他、上陸・産卵情報が 1件ありましたが、現場調査は実施しておりません。


    ストランディング個体


    ストランディング個体の標準直甲幅測定


    前肢に取り付けているタグ

    タグは文字や数字などの情報が印字され、前肢または後肢に付けられていることが多いです。プラスチック製や金属製など材質はさまざまで、体内に埋め込むインナーチップ型のタグもあります。インナーチップは専用のリーダーで読み込むことでデータを確認し個体識別をすることができます。
    今回タグを付けている個体は発見できず、写真は当館で飼育している個体の前肢に取り付けられている金属製のタグの写真です。

    報告は以上です。
    このウミガメ類フィールド調査は、地域のみなさまやお客さまからの通報を元に実施しています。
    今年度のウミガメ類フィールド調査へのご協力ありがとうございました。

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    2020年度 ウミガメ類のフィールド調査報告

    浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら

    触ってもいいの?

    どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。

    “えのすい”はなにをするの?

    打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
    さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。

    生きたまま打ち上がった生き物はどうなるの?

    浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。

    水族館で救護することはあるの?

    どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。

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